第1章 事例から紐解くウィンドウ展開の論点
公開日: 2020/07/10
2019年11月、米国カリフォルニア州サンタモニカで開催された映画見本市アメリカン・フィルム・マーケット(AFM:American Film Market)より、“Breaking the Mold: The Innovators”をレポートします。
連載第1回は、多様な公開方法が増えてきた昨今、最適な選択とは何かに焦点を絞り、劇場、製作会社双方の視点から紐解いていきます。"劇場ウィンドウ"や"Day-and-date公開"というテーマは古くて新しい問題です。劇場に加え、動画配信サービスという配給先も選択肢に入ってきた今、製作会社にとっての最適解とは。コロナ禍でウィンドウ問題がスポットライトを浴びた今だからこそ、業界の先駆者たちが明かす本質が光ります。
Alamoが劇場としてNetflixを支持する理由
モデレーター
本日は、コンテンツホルダー、製作会社、配給会社、劇場チェーンのみなさんが登壇してくださっていいます。そこでまずは、皆さんが感じていることや、業界の様々な部分で今起きている変化、特に皆さんが関わっている事例についてお話しを伺いたいと思います。ティム、あなたからはじめましょうか。
ティム・リーグ(Alamo Drafthouse Cinema)
今一番の話題は、マーティン・スコセッシ監督とNetflixの件でしょうか(編注:動画配信サービスのNetflix配給、スコセッシ監督の『アイリッシュマン』が2019年11月から劇場で限定公開された件)。議論が紛糾しているなか、この話題を扱うのは興味深いのですが、炎上は避けたいところです。しかし、敢えていいますが、AlamoはNetflixのやり方を支持しています。
22年間の劇場運営の経験から言うと、この5年間で、“劇場ウィンドウ(編注:劇場から二次使用までの期間を90日間確保すること)”であるものと、そうでないものに関する現実的な問題が浮かび上がってきたのだと思います。私たちは常にあらゆるコンテンツをサポートしてきました。お互いにとって利益があるのであれば、問題ありません。“day-and-date(編注:劇場公開日の即日に動画配信/パッケージ販売を行う)”にも取り組んできました。Netflixのコンテンツでも“day-and-date”で劇場公開したことがあります。理にかなっていれば、実施いたします。
モデレーター
何が理にかなっているのでしょうか?
ティム・リーグ(Alamo Drafthouse Cinema)
『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』(Netflix配給)は理にかなっていました。“day-and-date”で上映したのですが、多くの興行収入を稼ぎました。映画館には稼働率(編注:販売した席数における実際に売れた席数の割合)というものがあります。Alamoは業界の中でも最高の稼働率を誇っていいますが、それでも50%以下です。夏でも休日でもないローシーズンには、面白いコンテンツをどこで見つけるか、常に創造的な思考が求められます。
大手スタジオと長期間のフルタイム提携を行っていますので、立場上、その関係に優先順位をつけています。しかし、Netflixのコンテンツを編成に入れ込む手段もあるのです。我々は面白いコンテンツを持っている人をパートナーだと考えています。それは、スタジオであり、Netflixでもあります。多くの人を怒らせるようなことを言ってしまったかもしれませんが、これは私の個人的な見解です。
作品に適した鑑賞・リクープ方法の見定めが鍵
エリック・フェイグ(PICTURESTART)
かつて、劇場配給が映画化を推し進める鍵でした。しかし、時が経つにつれ、個人的にですが、劇場公開は人々の心に作品を届ける一つの方法ではありますが、唯一の方法ではないことに気付きはじめたのです。だからこそ、PICTURESTARTでは、特定のモデルに縛られないようにしました。作品を作りながら、適切な配給先を探すことに重点を置いているのです。
PICTURESTARTを立ち上げるにあたって 最初にしたことの一つは、書籍“Unpregnant”の映画化権を手にすることでした。本作は、ミズーリ州の17歳の少女が中絶をするために友人と2人で旅に出るロードリップものです。これは完璧だと思いました。それほどの予算をかけずに作ることもできます。この映画の観客は、中絶を擁護する人たちやメディアの人たちだと正確に把握できていました。
私たちがこの製作に着手し始めたころ、ワーナー・メディアが新しいSVODサービスを手掛け始めました。当時は名称がありませんでしたが、今ではもちろん「HBO Max」と呼ばれています。彼らから「このプロジェクトに興味がある。私たちの最初の映画にしたい」と言われたのです。1年半前には予想もしていませんでした。HBO Maxは存在すらしていなかったのです。状況が、市場が変化したのだと思いました。
モデレーター
PICTURESTARTの立ち上げに際して、劇場配給は重要ではないと捉えているとおっしゃっていましたが。
エリック・フェイグ(PICTURESTART)
作品によって最適な配給方法があるということです。私たちはプラットフォームにこだわっていません。“Unpregnant”の場合、HBO Maxとの提携は100%正しいモデルです。資金面でも、正直に言って、この映画の配給モデルとしても最適なのです。作品に適した多くの観客に鑑賞してもらえるでしょう。
『パラサイト 半地下の家族』の場合は、劇場配給が圧倒的に正しいモデルだと思います。「自宅のiPadで観られたら」という意見を聞きましたが、私はそれには反対でした。映画の素晴らしさを聞いていたので、劇場で観たかったのです。実際、劇場で観たとき、息を呑んで、これは傑作だと思いました。もし、自宅でiPadの画面で観ていたら、同じような感情を抱くことはなかったかもしれません。
私たちは多くの映画やテレビ番組に関わっています。もしかしたらiPhoneの画面よりも大きいスクリーンでは観られない作品もあるかもしれません。それでもいいのです。その内容やオーディエンスにとって、鑑賞方法が理にかなっているかを見定めているのです。今日で興味深いことは、様々なプラットフォームがあり、コンテンツごとに異なるリクープ方法があること。自分がとるべき方法が何かを見定めて、積極的にそれを実行していかなければなりません。
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