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第2章 メディア戦略・プロモーション施策事例「1:TV? デジタル? それとも…、予算配分の今」
公開日: 2018/07/06

特集:スタジオトップマーケターによる基調ディスカッション 第2章(1)
massive2018

 

映画のマーケティングに携わる者は、いかにして確実に成功を収められる宣伝計画を立案するのでしょうか。そして、成功する配給戦略とはどのようなものなのでしょうか。”MASSIVE The Entertainment Marketing Summit”で行われた基調ディスカッション“Film Studio Keynote Conversation”では、各スタジオのマーケティングのトップが、具体的な作品の宣伝施策を例に貴重な経験の数々を披露しました。

 

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視聴環境の多様化が進むなか、宣伝予算を投じる媒体にも変化が訪れています。ディズニーはデジタルの予算割合を6年前の2倍へと引き上げました。また、ソニーの『ベイビー・ドライバー』は、早期にデジタル媒体に予算を投下したことで作品をヒットに導いています。スタジオのトップマーケターが赤裸々に経験を語る本シリーズ。第4回はテレビかデジタルか? 予算配分の今に迫ります。

 

※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2018年3月)時点の情報です。
※スピーカーの概要は、連載第1回「第1章 宣伝戦略の今 「1:ヒットの鍵を握る映画のイベント化」」をご覧ください。

 

 

 

6年前の2倍、ディズニーが明かすデジタル媒体への予算配分

 

 モデレーター
今日、消費者の視聴習慣は多様化してきています。そういった状況を考慮すると、マーケティング予算の配分にも変化が訪れているのではないかと感じます。例えば、地上波とケーブルを合わせたTVとデジタルの予算割合はどうなってきているのでしょうか。

 

 リッキー・ストラウス(ウォルト・ディズニー・スタジオ)
壇上のみなさんも同じ意見だと思いますが、作品のタイプによって答えは変わってくるのではないでしょうか。例えば、非常にコアなターゲットに向けた作品をマーケティングするならば、デジタルに予算を割くのが効果的でしょう。

先週末に公開された『I Can Only Imagine(原題)』を配給したロードサイド・アトラクションズの宣伝は良い例だと思います。おそらく500万ドル未満のメディア予算で地上波や屋外広告など従来型の媒体に出稿していました。しかし同時にデジタル媒体も積極的に活用しており、それらが非常に効果を発揮して成功を収めました。

ディズニーに関しても少しご紹介しましょう。私が働き始めた6年半前はメディア予算の11~12%をデジタル媒体に割いていました。一方、大作に関しての話になりますが、現在ではその2倍以上の予算をデジタル媒体に投じています。今後も変動していくでしょうが、作品のタイプによって変わってくるのは間違いありません。

 

 

 

 パム・レヴィン(20世紀フォックス)
予算配分はターゲット次第とも言えますね。2017年秋に公開された『オリエント急行殺人事件』では、ターゲットを中高年に絞りました。秋という時節柄TVが元気だったこともあってTVを重視しましたが、もっと若い層がターゲットであれば話は違ったはずです。

 

 モデレーター
確かに。若い層はTVを観ないですからね。

 

 パム・レヴィン(20世紀フォックス)
つまり、どんな作品にもピッタリと合うオールマイティーなソリューションというのはないんですよ。

 

 ボブ・バーニー(アマゾン・スタジオ)
同感です。現在弊社ではリン・ラムジー監督の映画を手がけています。音楽映画で非常にデジタルマーケティング向きですが、先ほどお話しした『Life Itself(原題)』同様(「2:タレントパワーは健在か」にて言及)、TV世代にもアプローチしています。作品のタイプだけではなくターゲットによっても、予算配分が変わるというのは、間違いないですね。

 

マスへのリーチに今でもTVは効果的?

 

 モデレーター
マスにリーチするなら今でもTVが最適だと言われることが多いのですが、本当にそうなのでしょうか?

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ)
繰り返しになりますが、それは作品次第であり、タイミング次第であり、伝えたいメッセージ次第です。すべての消費者にリーチするのに最適な媒体をたったひとつだけ取り上げるようなことはできません。リッキーの指摘通り、明らかにデジタル媒体の予算配分は増えてきており、1年前、2年前、3年前よりもはるかに積極的にデジタルを活用しています。それでも、1つの媒体で宣伝をすれば事足りるというようなことはありません。

我々の仕事はお客様をソファから引き離して、映画館に足を運んでいただくことです。そのために使えるものは何であれ利用しなくてはなりません。デジタルの重要性は増す一方ですし、SNSも大事、ローカル媒体の必要性は言うまでもありません。伝えようとするメッセージによっては、ラジオも併用した方がいい作品もありますし、もちろんTVは言うまでもないですよね。

屋外広告も例外ではありません。ファミリー向けの映画を手がけたことがあるなら、もっと屋外広告が打てればいいのにと思ったことはありませんでしたか。映画のメッセージによるところが大きいのですが、こういった大枠のターゲティングも非常に重要だと言えます。

 

早期のデジタル宣伝戦略が起爆剤となった『ベイビー・ドライバー』

 

 

 

 モデレーター
ここでもう少し具体的な話をうかがいたいと思います。大ヒットを記録した『ベイビー・ドライバー』はどうだったのでしょう? どのような宣伝活動を展開されたのでしょうか。

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ)
エドガー・ライトという人物と彼のデジタル中心の考え方、そして作品のターゲット像などを考慮して、まずはサウス・バイ・サウスウエストを皮切りに宣伝活動を開始しました。サプライズ上映だったのですが、素晴らしく刺激的であり、あらゆる意味で今までにないタイプの作品だったため、一般公開のはるか前からその時のオーディエンスが熱心に支持してくれ、作品を広めてくれました。そこで、我々はその情熱にガソリンを注いだわけです。デジタルに予算を投下して彼らのメッセージや生の反応を拡散し、期待と興奮を醸成しました。TVはどうしたかと言いますと……。もちろん使いましたよ。あらゆる媒体で宣伝しましたが、何と言っても早い段階でのデジタル利用が起爆剤となりました。

 

 ブレア・リッチ(ワーナー・ブラザース)
『ベイビー・ドライバー』の宣伝を注意深く拝見していたのですが、非常に優れた動きをされているなと思っていました。どうすればイベント化できるか、ブレイクスルーになるのか、お話をうかがっていて非常に興味深かったです。

長年この業界にいますが、既にブランド化されている大作以外で、トレンドセッターを狙った口コミ戦略で『ベイビー・ドライバー』のように成功したものはそれほどありません。試写会にはどのような層が来て、その方々がSNSでどう拡散しているか、じっくり観察していましたが、本当にほれぼれしましたね。これは、必ずしもイベントとは呼べないものからスタートして、成功に導いた絶好の事例だと思います。我々もサウス・バイ・サウスウエストに行ってきたのですが、一体どうやって仕掛けたのですか?

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ)
あの作品だからこそ成し得たことだったと思います。なにせ我々は、エドガー監督がポテンシャル層に観させてしまったから、お金を払って観てくれそうなお客様はもう残っていないなどとジョークにしていたくらいですから。

『ベイビー・ドライバー』が大成功を収めたのは、エドガー監督がトレンドセッターやタレントとつながっていたこと。そして、本当に今までにないタイプの作品だったからです。これまでも試写や映画祭上映の際には好評でも、結果としてうまくいかなかった映画は数多くあります。エドガー監督のコネクションというか、エンターテインメント業界における立ち位置には本当に助けられました。

 

【次回】
第2章 メディア戦略・プロモーション施策事例
2:ネット”荒らし”を乗り越えた『ブラックパンサー』

 

スタジオトップマーケターによる基調ディスカッション

 

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