今、AIが映画ビジネスにもたらすもの(1/2)~創造性を奪うのではなく、サポートする
公開日: 2025/03/21
第75回ベルリン国際映画祭がドイツ・ベルリンにて2025年2月13日から23日にかけて開催されてました。また、併設のマーケットEFM(European Film Market)も同日に始まり、19日に閉幕を迎えました。本特集では、今年のベルリン国際映画祭・EFMについて、現地での状況を含めてレポート。第3回では、EFMの”Industry Sessions”で行われた、映画製作におけるAI活用についてのセミナー内容を紹介します。
※本記事で触れられている内容は2025年2月時点の情報です。
ベルリン国際映画祭の併設マーケット「EFM (European Film Market)」は、カンヌ国際映画祭の「マルシェ・ドゥ・フィルム」や、トロント国際映画祭の「TIFF Industry」と並ぶ世界三大フィルムマーケットの一つとされ、世界中の映画製作者、配給会社、販売代理店、配信プラットフォーム、投資家が集まり、映画の売買や共同製作の交渉、ネットワーキングを行う場となっています。同マーケットでは、業界関係者向けに”Industry Sessions”として、最新のトレンドや方法論を学べるセミナー、様々な分野の第一人者が集まるパネルディスカッションが多数開催されます。(詳しくはこちら)
”Industry Sessions”のフォーカステーマの一つとして、AIがピックアップされており、マイクロソフトをはじめ、AIを扱うベンチャー企業や大学教授など、多くの専門家が登壇。セミナー参加者が熱心に耳を傾けていました。EFMから見えてくる、映画作りにおけるAIの現在地とは。
新しく始まった”Innovations hub”ではAIにフォーカス

EFMのメイン会場であるGropius Bauの最上階フロアに、今年”Innovation Hub”が新たに設けられました。このエリアは、映像製作分野におけるクリエイティビティの向上と、先進技術の発展を目指しており、プロデューサー向けにインタラクティブなパネルディスカッション、実践的なワークショップが行われました。
特に、脚本執筆から配給に至るまで、業界に役立つ最先端テクノロジーや、AIを用いたソリューションに焦点が当てられました。新たな可能性を秘めたAIの利用について業界内では注目度が高まっており、昨年の「マルシェ・ドゥ・フィルム」における新技術に特化した”Cannes Next”でもAIにフォーカスが当てられていました。
出展社エリアには、最近の映画祭・マーケットのAI分野で常連となっているマイクロソフトや、デンマークのマーケティングに特化したAIツールを提供するベンチャー企業PUBLIKUM、企画開発・製作段階の分析ツールを提供するLargo.ai、ウェブメディアのLetterboxd、制作技術の会社として Vimeo などが軒を連ね、ミーティングやワークショップを行っていました。本記事では、”Innovation hub”エリアで開催された”Industry Sessions”において、映画ビジネス向けのAIサービスについて紹介したセミナー内容をレポートします。
創造性を奪うのではなく、サポートする映画製作ツール:PUBLIKUM

映画業界におけるAI、特に生成AIといえば、音声・画像・映像などクリエイティブワークでよく注目されますが、EFMでは、プロデューサー、マーケター向けのAIツールを提供する企業も出展・プレゼンテーションを行っていました。
マーケター向けツールを提供するPUBLIKUM が、”Using AI-backed Anthropology to Build Strong Audience Awareness”(AIを活用した人類学で観客層への理解を高める)と題した講演を実施(開催日時:2025年2月14日14時~15時)。その中で、同社がAIと人類学的アプローチを組み合わせ、ヨーロッパの映画製作者が観客の行動をより深く理解するための支援を行っていることを紹介しました。また、同社がサポートしたタイトルとして、2022年のアカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞及び長編アニメーション賞にノミネートされたデンマーク代表作『FLEE フリー』(英題:”FLEE”)や、「第75回 ベルリン国際映画祭」の”Berlinale Special Gala”で上映された”Köln 75”などが挙げられました。
セミナーによると、同社の特徴は、”AIによって補強された人類学”のアプローチであり、”人間が主導する予測・生成AI”を目指しているとの説明がありました。また、過去の脚本を使うのではなく”現在行われている会話”を、興行収入結果ではなく”作品によって引き起こされた感情・気持ち”を、単なる自動化ではなく”協働”を、結論ではなく”体系的な考察”を重視していると強調しました。こうしたアプローチで生み出された分析に基づき、最近の傾向として「多くの青春・成長物語は、若者から共感を得られていない」「観客は、プロットやストーリー、テーマよりも、キャラクターについて議論し、印象に残っているものである」「物語は”やりすぎ”よりも、むしろ踏み込みが足りないことがリスクになる」などの洞察が共有されました。
さらに、PUBLIKUMが開発したソフトウェア” ThemeCrawler”について紹介されました。同ツールは、ソーシャルメディアやオンラインの公開情報を基に、社会的なテーマに関する議論や、感情を分析するAIアルゴリズムであると共有。例えば、アルゴリズムを基に「ナルシシズム」というテーマについて、スカンジナビア3カ国(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)で異なる認識があることが分かります。デンマークでは「危険な男」として語られ、スウェーデンでは「精神的な病」とみなされ、ノルウェーでは「リーダー向き」と評価されていることを明かしました。また、同社は映画のテーマやキャラクター設定が、より効果的に観客に作用するために、映画製作の過程で、観客の反応をリアルタイムで収集していると説明。スマートフォンを活用したインタビュー手法を採用し、6日間にわたり観客に製作中の映画から短いビデオを提示。そのフィードバックを収集することで、ストーリーやキャラクターへの共感度、感情の揺れを分析することができると明かしました。この方法により、観客の本音が引き出され、より共感される映画作りが行われていくと期待できます。
さらに、開発実験中のツールの1つとして、予測AIツール”Logline”が紹介されました。映画の簡単なあらすじを入力することで、IMDbによる約60,000本のヨーロッパ映画のデータを元に、観客の反応を予測し、赤(低関心)、黄(評価が分かれる)、緑(高関心)の3段階で評価を行うと説明。映画のコンセプトを変えることで、より良い反応を得られるか試すことができ、映画のマーケティング戦略の立案にも役立つと強調しました。また、同社では従来のテキストデータに加え、TikTokやInstagramなどのビジュアルコンテンツを分析するAIも開発中であると明かしました。動画や画像に含まれる感情やトレンドを解析し、特に若年層の関心をより正確に把握できるようになり、現代の視聴習慣に即した映画作りを可能にするとアピールしました。そのほか、観客が映画のストーリーやキャラクターにどのような感情を抱くかを分析するAIツールも開発されていると共有。観客が予告編を視聴した際の表情を解析し、恐怖、喜び、驚きといった感情の動きを可視化することが可能で、映画のプロモーション戦略を感情的なインパクトに基づいて最適化することを目指していると意気込みを語りました。
このようにPUBLIKUMのツールは、映画のストーリーやキャラクターを改変するよう強制するものではなく、クリエイターがより広い視野を持ち、観客の期待に応えるための洞察を提供し、映画製作者がより良い決断をするためのサポートツールとして設計されています。AIといえば、特に生成AIは創造的な仕事を奪うもの、予測AIは興行収入や動員など経済的な結果に直結するものが多いイメージですが、同社は、映画製作者の創造性を損なうことなく、観客の期待に応えられる作品を生み出すためのサポートとしてのツールの開発を目指していることが伺えました。
目先の「仕事の生産性」に高い注目度:Microsoft

マイクロソフトは、昨年のカンヌ国際映画祭でビーチ沿いのエリアに大規模な特設エリアを設け、多くの人を集めて商品デモやセミナーを実施。今回のEFMでも、最もアクセスのよい場所にブースを出展し、セミナー”Art of the Prompt – From Script to Pitch”(プロンプト術~脚本から提案まで)を行いました(開催日時:2025年2月15日12時~13時)。
同セミナーには、マイクロソフトのドイツ支社からMicrosoft 365 Copilotを担当するシニアスペシャリストのクリスチャン・パンツケ氏が登壇。同社が提供する生成AIツール「Copilot」 を使って、架空の脚本に基づき企画書を作る過程のデモを披露し、そのなかで「AIを使うコツ」について解説しました。
パンツケ氏は、AIを使うべき背景として、ビジネスパーソンの3分の1が仕事のペースと量についていけないと感じているという調査結果に触れつつ、Copilot を使った生産性を上げるための実践的なTIPSを紹介しました。例えば、同ソフトへのプロンプト(AIに対する指示)において、最も良い結果・回答を得るためには、「欲しい成果」「背景(回答が必要な理由、関係者)」「Copilotが探索すべき情報源」「期待すること(結果に求めるスタイルなど)」などの要素を明らかにするべきと解説。さらに、利用する際に、明確かつ具体的に指示すること、会話を続けるようにする、例を示す、フィードバックを求める、読みやすく書く、正確性を確認する、詳細情報を提供する、礼儀正しくする、などを推奨する一方、その裏返しとして、曖昧にしない、不適切または非倫理的な内容を求めない、スラングや砕けた言葉を使わない、矛盾した指示を出さない、突然話を中断したり、話題を変えたりしないことの重要性を強調しました。
実際のデモでは、映画製作者用にカスタマイズされたCopilotに、PDF形式の架空の脚本を読み込ませ、企画書を自動生成し、また、同ソフトの指示で脚本を手直しする手順が披露されました。
- 第1回:開かれた映画祭としての可能性
- 第2回:今、AIが映画ビジネスにもたらすもの(1/2)~創造性を奪うのではなく、サポートする
- 第3回:今、AIが映画ビジネスにもたらすもの(2/2)~正しい期待値設定が生産性向上をもたらす近日中公開
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