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消費者にコンテンツを発見してもらう施策の具体事例
公開日: 2017/01/12

データによるコンテンツ・ビジネスの革新 - the transformation of content through data (2)

コンテンツ制作のデジタル化によって、脚本やストーリーボードはもちろん、ストーリーテリングの過程においてもまったく新しいプロセスが生じている。技術部門のトップは、製作過程の複雑さが急激に増している作品を、様々なプラットフォームを通じてリリースするために、どのようなデジタル・トランスフォーメーションを行うべきなのか。製作・配給両面において、アニメーション作品と実写作品では取り扱いにどのような違いがあるのか。

メジャースタジオやプラットフォームの技術リーダーらによる現状報告と、彼らが実体験から得たより良いデジタル・ストーリーテリング体験を観客に提供するための方法論をお届けする第2回目です。

 

モデレーター:

ジェイ・タッカー ( USC Marshall School of Business/コミュニケーション・テクノロジー・マネジメント部門 最高マーケティング責任者)

 

パネリスト:
スーザン・チェン ( ワーナー・ブラザース/コンテンツ管理&配給部門 SVP )
ポール・デイヴィッドソン ( The Orchard/映画&テレビ部門 SVP )
マイク・フリン ( コレクティブ・デジタル・スタジオ/最高技術責任者 )
マット・カウツ ( Machinima/分析・リサーチ部門 ビジネス・インテリジェンス代表 )
カリエル・ロバーツ ( ディスカバリー・デジタル・メディア/商品&技術部門 SVP )
アーロン・スローマン  OWNZONES/最高技術責任者

消費者にコンテンツを“発見”してもらうには

データを活用し、消費者のエンゲージメントを高めて最適化していくわけだが、観客は自分の望むコンテンツにどうやってアクセスするのか。いつリリースすれば適切なタイミングということになるのか。具体的な事例とともに紹介していく。
 
リリースのタイミングについてディスカバリー・デジタル・メディアのカリエルはこう答える。

「状況は常に変わっているので、いまもそうだといえるかどうかわかりませんが、たとえば、Facebook上では、日曜日、動物関連コンテンツに人気が集まります。我々が持っているナマケモノ関連コンテンツで、顧客開発チームが“ナマケモノの日曜日”という企画を行ったことがあります。それとは別に金曜日に宇宙関連コンテンツに引きがあることにも気づきました。理由はわかりませんが、宇宙関連のコンテンツは、水曜日より金曜日のエンゲージ率が圧倒的に高いのです」。
 
だが、最も重要なポイントはいつリリースするかではなく、どうユーザーに“発見”してもらうことではないかという点。ユーザーの発見に影響を与え、その回数を増やしていくためにどんなデータが必要なのか。ディスカバリー・デジタル・メディアのカリエルは、「見つけやすさという点で重要なポイントは、消費者目線になることだ」という。

「1つのコンテンツをあちこちでリリースしても、そこの人々が何をしているかを把握できていなければ意味がないのです。ただリリースしても、ウェブサイトを訪ね、実際に劇場に足を運んでくれる可能性は低いでしょう。見つけやすくするためには、何が成功しているのか、さらにどのカテゴリーがより成功し、各プラットフォーム用にどのようにコンテンツが制作されるべきなのか、データから理解することが重要なのです」。
 
ワーナー・ブラザースのスーザンは、見つけやすくしようと考えるのではなく、「消費者の時間を獲得しようと考えることだ」という。

消費者の時間をどう獲得するか

「よく冗談で話しているのですが、今の我々は、“無限のシェル・スペース(OSを構成するソフトウェアの一つ)”を持っているようなものです。そのなかで、いかにして消費者を発見に導くのか? 重要なのは、消費者の時間をどう獲得するかということなのだと思います。そう考えると視点がガラリと変わります。消費者に自由に使える時間と収入があるとき、どのようにしてそれを特定し、適切な瞬間にアプローチすることができるのか? まさしく“ナマケモノの日曜日”であり、“サイエンスの金曜日”なのです」。
 
数百万のアイテムと多くのチャンネルを展開するOWNZONESは、「我々はB-to-Bの配信チャンネルでもあるので、皆さんとは少し考え方が異なるかと思います」と断りを入れつつ、「我々には、データと分析論がすべて。コンテンツ・プロデューサーが最大限の収入を得るためのカタパルトなのです」と答えた。
 
「我々はまず、コンテンツ・パブリッシャーとチャンネルを立ち上げるとき、そのチャンネルが誰を対象としているかを精査します。“データ”を活用し、それぞれのチャンネルのパフォーマンスを見ながら、各チャンネルに足りない部分を探します。その上でコンテンツ・パブリッシャーのもとへ戻り、エンゲージメントを持続させるために、こうしたコンテンツが必要だと依頼するのです。今は、即座にクレジットカードで決済できるという柔軟性もあります。我々は、各チャンネルのコンテンツ選定やレベルにおいて、会員の欲求に適合したものを提供し、満足感を与えなければなりません」。

OWNZONESがもう一つ大事にしているのが“分析論”。「我々にとっては会員登録だけでなく、“分析論”も重要です。ユーザーがコンテンツを最後まで視聴したかどうか中断率も見ています。ひとつのコンテンツを中断した場合、次にどこに行くのか? そのユーザーにさらに30分間、同じチャンネルを見続けてもらうためにどのようなコンテンツ展開をするべきなのか? 無料視聴期間の終わりにユーザーが、“このチャンネルには価値がある”と思い、クレジットカードへの課金を許諾するために何ができるのか?ということを分析しています」

 

アルゴリズムとユーザーインターフェイス

YouTubeのマルチチャンネルネットワーク(MCN)であるMachinimaは、すべて、クリエイターが発信するコンテンツと観客にかかっているという。

「すでにエンゲージメント率の高い会員ベースを持っているクリエイターもいます。彼らのコンテンツをさらに発見しやすいものにするために提供できるものとは、“彼らの特定の観客が最も興味を持っていることは何か?”、“その観客の心に最も響きやすいものは何か?”というデータです。

一方、より局地的かつ、アルゴリズム的なアプローチを望むクリエイターもいます。彼らに提供するインサイトは、SEOキーワードにまつわる種類のものが多いです。“コンテンツの題材に関連する人々の間で、一般的に流行し、最も投稿したいと思っていることは何か?“というようなことになります」。
 
Machinimaと同業態のコレクティブ・デジタル・スタジオのマイクに言わせれば、消費者に発見してもらう試みは「実験の繰り返し」にしかないとなる。

「何かを出し、試してみて、また変える、という。Facebookが、アルゴリズムを変えれば、結果も変わるということが究極の例です。すべてがまったく違う形に変わったとしても実験を続けるしかありません。アルゴリズムに基づくデータ収集は、経験則、データ、あらゆるアプローチで行っています。とにかく可能な限りのデータをとり、それをモデル化します。何が機能するのか試したうえで、さらなる実験を続けます。KPIは、プラットフォームや配給モデルごとの特性によって異なりますので、そのつど判断基準は変わります」。
 
「アルゴリズムに加えて」というのは、音楽・映画・テレビ配給会社であるThe Orchardのポール。「人々が様々な異なるプラットフォームと対峙する際に変化をもたらすには、アルゴリズムに加えてユーザーインタフェース(UI)を変えることも効果的だ」という。

「たとえば、初期設定を購買にするか、レンタルにするか。何が人気なのかというチャートを付け加えるなど。コンテンツのチャートを見せるという点で悪名高いのはiTunesですが、トップページに表示されているトップ25にタイトルが載っていれば、取引は活性化します。人々の関心を引くものが以前よりもずっと多く存在するようになった現在、ユーザーにコンテンツを発見してもらうためには、データが重要なのです。ただし、外部からのデータ提供を待つだけでなく、自分のカタログを使い、似た状況のものを見つけ、それを活用することも大切です。少なくとも何が効果的で、何が非効率化ということについて、何かしらの根拠ある推測ができるはずです」。

 
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最終回となる次回では、コンテンツ・トランスフォーメーションを分析するアナリストを、それぞれの企業の持つコンテンツや事業に合わせてどのように教育しているのか、紹介する。 

 データによるコンテンツ・トランスフォーメーション レポート