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どのVOD提供形態が儲かるのか? - 動画配信ビジネスの未来
公開日: 2017/01/20

VOD(動画配信ビジネス)の未来~アメリカの現状~(1)

世界を見渡すとVODはいまや、多くの映画にとって大きな収入源となっている。近い将来、すべての映画を世界中のユーザーが見つけ、視聴できるようになるのか?

2016年のAFM(American Film Market)において開催されたカンファレンスでは、”Future of Video On Demand”というテーマのもと、映像コンテンツのプロデューサーや配給会社、配信プラットフォームのキープレイヤーたちが、どこで利益が出ているのか、どのように稼いでいるのか。それぞれの立場と現状をもとに議論したセッション内容を8回にわたってお届けする。
 

モデレーター:

ブルース・アイゼンDigital Advisors 代表 )
コンテンツ買付・配給に関わる戦略コンサルテーションおよびマネジメントを行うDigital Advisorの社長、かつエンタテインメント弁護士として、従来のメディアと新興メディア両方の内部情報を熟知。

 

パネリスト:
スティーブ・ニッカーソンBroad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 )
映画スタジオBroad Green Picturesにて、VOD、DVDやBlu-Ray販売、テレビ放送など、劇場公開以外のすべての配給分野を統括。以前は、ワーナー・ホームビデオ(海外DVDマーケティング部門VP、米国営業部門のSVP)など。映画業界以前は電気製品業界に従事し、「業界の外」の視点も持つ。

エリック・オペカCinedigm /デジタル・ネットワーク部門EVP )
インディペンデント・コンテンツ配信事業Cinedigmにて、デジタル・ネットワーク部門を統括。コンテンツ・ホルダーが独自配信チャンネルを持つ際のソリューションや、コンテンツのスケジューリング、配信決済の仕組み作りなどに携わる。同パネルでは、OTTビジネスの視点からVOD についての見解を語る。

へニー・パテル AT&T Entertainment Group /ビデオ・マーケティング部門VP )
AT&T entertainment Groupグループ内のDirecTVなどすべての映像配信プラットフォームを担当するビデオ・マーケティング事業部門VP。同社に入社した2011~15年までに、ペイ・パー・ビューおよびVODビジネスの年間収入を2桁増にした実績を持つ。さらに、「DirecTV CINEMA Exclusive Premieres」プログラムを立ち上げ、50本以上の映画を劇場公開の30日前にDirecTVで独占配信。

メイヤー・シュワルシュタイン( Brainstorm Media代表 )
1995年にインディペンデント映画製作・配給会社Brainstorm Mediaを設立、放送・配信事業者との提携を強みとし、世界各国の様々なメディアに年間約40本の映画を配給している。1000本を超える映画の企画開発/資金調達/マーケティング/配給/製作に携わってきた実績あり。

“VOD”といっても、いろいろなコンテンツ配信の提供形態がある中でどれが一番儲かるのか?

 「映画のタイプによる」という認識の現状
 

ブルース( モデレーター ):
今日はたくさんの質問を準備していますが、最大の関心は「誰が儲けているのか?」ということに尽きます。TVOD(都度課金型動画配信)、AdVOD(広告運営動画配信)、SVOD(定額制動画配信)、EST(ダウンロード動画販売)と様々なVODの形態があるうち、どれが一番、売上を出しているのでしょうか? それとも、パターンの問題ではなく、映画の種類によるものなのですか?

メイヤー( Brainstorm Media 代表 )
どのウィンドウが最も売り上げを上げるかは、ファースト・ウィンドウによります。重要なのはファースト・ウィンドウであり、それこそが、映画の価値を最大化できる部分なのです。
ここにいる方々の中には、映画の劇場公開とVOD配信を同日に行うことのメリットについても感じている方も多いと思います。こうした同時リリースに適した種類の映画を扱うのであれば、TVOD の部分で非常に多くの売上を稼ぐことになるはずです。また、私たちはテレビ放送用の映画も取り扱っていますが、これらの映画はAdVODにおいて、多くの売上を出します。劇場公開で好成績を上げた映画であれば、すでに多くのファンがいて、関心が高いわけですから、TVODが重要なセカンド・ウィンドウ市場になるでしょう。


スティーヴ( Broad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 ):

私たちが映画配給を始めて、約1年半。外国語作品から、3000万ドルのボックスオフィスを稼ぐ作品まで、様々なタイプの映画を16本、劇場公開してきました。それらの映画においては、今の市場で可能とされる、すべてのリリース・パターンを実践しました。伝統的なウィンドウ、Day and Dateウィンドウと、あらゆる方法での配信を実践しましたが、とにかく、コンテンツによるといえるでしょう。従来の配信パターンをとらないほうが、一度により多くの視聴者を獲得できる映画もあれば、伝統的なパターンのほうが適している作品もあります。

 

SVOD、TVOD、ESTの公開タイミングの関係:これらは「食い合い」の関係にあるのか?

消費者としてはTVODで借りた一週間後にNetflixなどSVODで見られるようになっていれば頭にくる。すぐにSVODで見られるようになると思ったらTVODでは見なくなる?
 

ブルース( モデレータ ):

エリックさんのところでは、SVOD、TVOD、ESTのパターンを採用していますね。1本の映画を違うタイミングにおいて、3パターンでリリースすることはあるのですか? それとも、すべて違うパターンを取るのですか? その仕組みを教えてください。

 

エリック( Cinedigm /デジタル・ネットワーク部門EVP ):

それぞれの映画によって、適切な戦略があると思います。なかには戦略上、短いウィンドウにせざるを得ない映画もあります。ウィンドウ戦略は映画業界全般の問題ですが、インディペンデント映画会社やフィルムメイカーは、スタジオほど長いウィンドウを取ることにこだわる必要がないため、コンテンツによってはTVODの後、すぐにSVODで見られるようになることもあります。
一方で、消費者は大分賢くなってきていると思うのです。ここにいる皆さんはどうかわかりませんが、私は、高いお金でTVODで借りた作品が、わずか1週間後にAmazonやNetflixなどの定額制の見放題サービスのSVODで見られるようになると頭にきます。いまや消費者は、「すぐにNetflixに上がるかもしれないから、しばらく待ってみるよ」と考えるようにもなっています。検索エンジンをつかって消費者は少しでも安くコンテンツを見る方法を見つけ出すようになるでしょう。

見られるウィンドウを選び、見るタイミングを待つ消費者の行動は、Netflix登場前からだ

DVDだってしばらくすればHBOなどの放送チャンネルで見られるのと同じ。唯一異なるのは、ウィンドウとウィンドウの間の時間の長さ
 

スティーヴ:
でも、そういった現象はNetflixの登場前からあったのでは? 私も、大体の映画においてはDVDリリースを待っていたものですが、なかには、HBO などのプレミアム・チャンネルで放送されるまで待っていた映画もありますよ。それと同じでは?


エリック:
でも、当時は、6カ月や1年といった長いウィンドウがあったと思います。今は、特にAmazon などのプラットフォームにおけるSVODウィンドウがとても短くなっていますよね。例えば、私は『ネオン・デーモン』をレンタルしようと思っていたのですが、忙しくて借りられずにいるうちに、1週間後に配信されるようになっていたのです。こういったパターンが今のトレンドであり、今後もどんどん増えていくと思います。コンテンツ・ホルダーも目の前に大金が見えていたら、なかなか逆らえないものです。

VOD、ESTの関係:rent(借りる)VS own(所有する)

それぞれに決まった量の需要があるとすると、どちらかを先行させることは他方の販売機会損失になる?
 

スティーヴ:
最近は、大きなスタジオほど、ESTのタイミングを早めようとしていますが、ESTを早めると、少しはEST購入が増えるものの、VOD売上が減る傾向にあります。その理由は、購買心理にあります。リアルな小売市場では長年取り沙汰されていることですが、電子市場にも当てはまることです。

劇場公開で、ある程度の興行収入を稼ぐ映画においては、一般的に観客の約15~20%がその作品の購入予備軍、80~85%が何かしらの方法でのレンタル予備軍と考えられます。そのときに、例えばESTを早めて、そのタイミングで最もよい商品施策・プロモーションを実施し、そしてその2~3週間後に同じプラットフォームでTVOD展開を行い、その時はそれほど商品施策・プロモーションに注力しなかったとしたら、わずか15~20%の観客のために、最高の商品施策・プロモーションを無駄に実施したことになるのです。ESTウィンドウでは売上を増やせるものの、TVODウィンドウでは大幅な売上不振に苦しむことになります。

<(2)「独占配信」戦略の効果 に続く>

 VOD(動画配信ビジネス)の未来~アメリカの現状~ レポート

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