記事

小売市場の変化の意味合い
公開日: 2018/03/15

グローバル映画興行市場のトレンド ~CineAsia 2017カンファレンスレポート(5)~

この連載は、2017年12月中旬に香港で開催された、世界各国の映画興行・配給関係者が集まるコンベンション「CineAsia 2017」内のカンファレンスICTA(International Cinema Technology Association)主催のセミナーのレポートです。
日本を含むアジア各国映画興行市場の特色、世界の映画興行のトレンドについて、20世紀フォックスのカート・リーダー氏が語ったセッション内容を5回に渡りお届けします。

※本記事で触れているサービス内容はカンファレンス開催(2017年12月)時点の情報です
 

スピーカー:
カート・リーダー(Kurt Rieder)
20世紀フォックス(Twentieth Century Fox)アジアパシフィック劇場配給担当上級副社長

最後にお話するのは、小売市場を取り巻く環境と、なぜそれを注視すべきかについてです。理由は、それが我々の生きる生態系に密接に絡んでいるからです。まずはアメリカの小売市場について考えてみましょう。

小売市場の変化

多くの「大型」なものは厳しい状況におかれ、色々なものが「小型化」されています。多くの都市には店がありすぎる。そんななかで多くの小売りチェーン企業が“破綻あるいは“破綻しそうと言われていて、店舗閉鎖が進んでいます。アメリカにおける中規模の典型的なショッピングモールでは、大きな店舗の撤退が始まると、彼らの集客力に依存している専門店が大きな打撃を受けます。もしモール内の大きな店舗が、1つや2つでも破たんして閉鎖されたり撤退したりすれば、当然そのモールに自分の映画館を持ちたくはありませんよね。それに、全国的に影響が及ぶのではないかとの危惧もあります。

モールの中にはまだ借入金を抱えているところもあり、テナントからの賃料が減ればもちろんモール側は債務の履行が難しくなります。このサイクルもまた、始まったばかりです。そして、そうなると次にはこんなことが起こります。小売店の販売員というのは低所得である場合が多いので、失業すればモールに買い物しに来なくなるのです。この悪循環には気を付けなければなりません。

アジアで伸びるeコマース:シンガポールの特色

世界的なトレンドのほうは、追い風を期待しましょう。現在、アマゾンとアリババ(オンラインおよびモバイルコマース事業を行う企業)がショッピングという行動を席巻していて、アジアでのeコマースの伸びは目覚ましいものがあります。浸透率ではアメリカを抜き、世界トップである英国に迫りつつあります。

アジアの中でもシンガポールだけが異なる傾向を示しているのですが、その理由は2つあります。まず、素晴らしいショッピングモールがあること。そしてもう一つは、人口密度が高いため、何をするにしても外出する必要があることです。この点は、非常に重要です。

シンガポール人は、オンラインとオフラインの行動をシンクロさせることに長けています。例えば、何かを買おうとしたとします。ご自分のサイズはないけれど、別のサイズのものを試着して、素材と価格に満足した場合、店側が発注をかけてご自宅まで配送してくれるのです。

また、世界中で同じ傾向が見られますが、飲食業が新たな戦場となっています。上海では、Cinnabon(アメリカ合衆国の菓子パン類のチェーン店)のようなブランドが苦戦していて、もっとクールとされているHoneybeeやスターバックスの新業態Starbucks Reserve Roasteryなどに取って代わられつつあります。香港でもパシフィックプレイス(ショッピングモール)は、お客様を呼び寄せるのはこれまでのようなアパレル他の小売店ではなく飲食店であることを理解し、この18ヶ月の間に飲食店を2倍に増やしました。シンガポールではモールにある店舗の40%が飲食店であり、さらに10年前には20%に過ぎなかったことを考えると、大幅増と言えます。

小売業界の施策例:顧客理解による問題解決

小売業界での例を2つほど見てみましょう。

まず1つめですが、例えばショッピングモール内のテナントの80%が撤退すれば、基本サービスを提供できなくなるとします。一般スタッフを一時解雇し、モールを売却することもできず、改築費用もままなりません。こうなるとモールはゾンビと化すのです。ニュージャージーのとあるモールは、20%の収益で2年半操業を続け、現在でもまだ閉鎖していません。ディスカウントショップが2店舗入っているのですが、閉鎖も時間の問題でしょう。

次に、2つめの例として成功例であるウェストフィールド・センチュリー・シティ(LAのショッピングモール)。このモールは、2年ほど前には問題を抱えていました。買い物客数は低迷し、誰もが同じLAにあるザ・グローブのようなクールとされるモールに行くか、オンラインでショッピングを済ませていました。特に、このモールのターゲット層である高収入で教育程度の高い層に、この傾向が顕著でした。

そこで、このモールが行ったのは投資の倍増でした。舗道の整備などの景観づくりに注力し、駐車場をリノベーションしたのです。その結果、今では週末に駐車スペースを見つけるのが難しいほどの集客力を誇れるようになりました。成功の要因は、自分たちの顧客を充分に理解したことでした。ペット用の冷水器や無料のオヤツを用意しなければなりません。LAなのですから、当然です。また、アマゾンは、こういった顧客に対してできる最大限の対応として、リアルの店舗をこの地にオープンしました。

未来に向けて

アジアの映画館運営会社は、世界の基準となっています。すでに世界のトップではありますが、お客様にこれからも来ていただくためにはトップであり続けていただかなければなりません。皆さんは、本質的には新たな階層のサービス提供者なのです。リース契約に署名された時点ではその意識はなかったかもしれませんが、他のテナントが規模の縮小または完全撤退を余儀なくされる中、皆さん以上に設備投資を行い長期にわたって生き残っているテナントはないのです。

また、皆さん(アジアの興行会社の方々)の集客力には目を見張るものがあります。映画館、配給会社共に協力して、ベビーシッターを雇ってでも足を運ぶ価値のある時間を提供するべく取り組まなければなりません。それが、何よりも肝要です。では、配給会社は何をすればよいのでしょうか?我々は商品をマーケティングする上で、皆さんともっとしっかり協力しなければなりません。映画が自分でマーケティングしてくれるはずはありません。

マーケティングには、皆さんと皆さんがお持ちの素晴らしいCRMデータが不可欠です。そうした共同の取り組みの中でお客様が一つ一つの作品の予告編と本編を観てくださるようしていきたいと思っています。公開した映画にはすべて成功を収めてほしい。それが、全体的な環境の活性化につながるからです。
 

最後に、わかりきったことではありますが、我々はディスラプション(非連続な変化)には慣れていかなければなりません。

 

グローバル映画興行市場のトレンド シリーズ

レポート・データ解説