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アジア各国の映画興行市場の特色
公開日: 2018/02/16

グローバル映画興行市場のトレンド ~CineAsia 2017カンファレンスレポート(2)~

この連載は、2017年12月中旬に香港で開催された、世界各国の映画興行・配給関係者が集まるコンベンション「CineAsia 2017」内のカンファレンスICTA(International Cinema Technology Association)主催のセミナーのレポートです。
日本を含むアジア各国映画興行市場の特色、世界の映画興行のトレンドについて、20世紀フォックスのカート・リーダー氏が語ったセッション内容を5回に渡りお届けします。

※本記事で触れているサービス内容はカンファレンス開催(2017年12月)時点の情報です
 

スピーカー:
カート・リーダー(Kurt Rieder)
20世紀フォックス(Twentieth Century Fox) アジアパシフィック劇場配給担当上級副社長

事例の紹介:インドの映画館事情と複数言語での競争

前回の続き)次にインドのお話をしましょう。

この国では20の言語が使用されていて、映画が製作されている言語だけでも6つか7つあります。100万人以上の人口を擁する都市は53箇所もあり、とても広大な国です。TV市場も非常に活発で、インドでケーブルの契約を解除する人はいません。毎年900万世帯で増加しています。何せ600チャンネルのプランが、月3ドルしかしないのですから。

 

デジタルも爆発的に成長しています。これは、ブロードバンドや携帯電話のプランが四半期ごとにどんどん低価格化していることに起因しています。GDPの成長に対するパーセンテージが特に顕著に伸びていますが、インドがとりわけ急速に変化しているのはこの点です。すでに3億台のスマートフォンが使用されています。

 

◆ ◆ ◆

 

インドに5,500ある独立系の映画館のうち、4,000は*DCIの基準に合致していません。つまり、ハリウッドメジャースタジオの作品をそこで上映することはないということです。(*DCI…米国の大手映画配給会社で構成されるデジタルシネマの標準化団体、または団体が策定した仕様)それらを全てDCIの基準に適合するよう改築する話がなかった訳ではありません。全部が改築することはないとは言え、間違いなく多くの映画館は改築するでしょうし、そうなれば、ヒンディー語を始めとする各地域で製作された映画だけでなく、ハリウッドメジャースタジオのヒット作品にとってもプラスとなります。

  

インドでごく平均的な映画館をオープンしようと思ったら、25~30の許認可を取る必要があります。時間にすれば、映画館が完成してから開業できるまで6~12ヶ月を要します。まったくもって厄介な環境です。また、インドでのシネコンビジネスの事業性は、稼働率の高さを前提にしています。そのため、映画館運営会社は顧客に館内で充実した時間を過ごしてもらうために大きな投資をします。つまり、インドでは世界最高峰の映画館が建設されつつあるのです。1席あたり膨大な量な観客を確保しなければなりません。

   

インドにおいて、メジャースタジオをはじめとする外国映画配給会社にとっての課題も枚挙にいとまがありません。私から見た最大の問題点は“複数の言語で競争しなければならない”ことです。私が見たムンバイ郊外のシネコンでは、作品ごとに全て違う言語を示していました。つまり、ヒンディー語、その地方の言語、英語など多くの作品が限られたシネコンのスクリーンを奪い合っているのです。結果として、常に熾烈な競争にさらされています

日本・インド以外のアジア各国の映画市場について

ほか、アジア地域各国の概要をご説明しましょう。


<東アジア>

◆韓国
総興行収入の80%は2の地域が占めています。
◆台湾
台湾では、最高の設備を持つ映画館が、首都である台北ではなく港湾都市などに建設されつつあります。まだ先行きは不透明ですが、私はそれらの都市に将来的なポテンシャルがあるのではないかと思っています。また、人口密度も今後に大きく影響すると思います。

◆香港
香港の人口密度は必ずしも貧困に直結してはいません。香港では、住居が狭く、実にいろいろなことを家の外で行うというだけです。それと都市における現代的なシネコンというインフラの不在とを結びつければ、将来は明るいと言えるはずです。

◆中国
中国は、政府が2020年までに60,000スクリーンを建設するとしています。壮大なプランですね。

 

<南アジア> 

◆バングラデッシュ(ダッカ)・パキスタン(カラチ)

この両都市は素晴らしい映画興行市場のポテンシャルがあります。


<東南アジア> 

◆インドネシア
インドネシアの映画興行市場は、アジアで最も競争のない国から激しい国へと変貌を遂げました。

◆フィリピン
フィリピンはスーパーヒーローものがヒットする国で、2016年や2017年の現時点までの興行収入の24%がスーパーヒーローものです。フィリピンの方はスパンデックスがお好きだということなのでしょうかね。

◆ベトナム
ベトナムでは、映画館での鑑賞人数は増えていますが、価格競争のため興行収入は落ち込んでいます。 

◆シンガポール
シンガポールは、非常に遵法精神の強い国ですが、違法ストリーミングサービスが最も定着している国でもあります。 

< (3)技術革新が映画館にもたらすインパクト に続く >

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