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第1章 はじめに~CATS用語解説~「意欲/認知」の理解で“攻めの宣伝戦略”
公開日: 2020/02/21

「意欲/認知」の理解で“攻めの宣伝戦略”
第1章 はじめに~CATS用語解説

「CATSデータ」で主に扱う指標に“浸透度”と“歩留り”があります。浸透度には、『認知(率)』や『興味層』『意欲(率)』『ファーストチョイス(率)』、歩留りには『意欲/認知』などが含まれます。各指標の詳細は後述いたしますが、「CATSデータ」において、意欲は興行収入との相関が最も高く、非常に重要な指標です。また、認知も宣伝活動における作品の浸透状況の指標として、よく利用されている指標の一つです。さらに、これらの指標に加えて、非常に有用ながら意外と知られていない指標として、意欲/認知が挙げられます。

今回、弊社の定点市場調査データ「CATSデータ」の指標とその読み方の解説記事を全8回にわたって掲載。連載を通じて、認知意欲、そして意欲/認知の3つの指標につき、事例を交えつつ紐解いていきます。

 

第1章 目次

分析の前に――「CATSデータ」用語解説

解説に入る前に、本コラムで利用する「CATS」データの前提や各種用語の詳細を確認していきましょう。

分析対象者

本コラムで扱う「CATSデータ」は、「1年に1本以上劇場で映画を観る15歳以上69歳以下の人」を対象に分析しています。これは日本国内において、およそ2500万から3000万人と見込まれます。本コラムではこの分析対象者を「映画鑑賞者」と呼ぶことにします。

分析対象作品

2010年から2019年に国内で劇場公開された作品のうち、「CATSデータ」として劇場公開12週前からデータを聴取した作品を分析対象とします。対象作品は原則、公開初週土日の公開規模が100スクリーン以上の作品となります。
※但し、100スクリーン以上でも公開日が不明だったなどの理由により、12週前より調査が実施されていない作品は本分析では対象外としました

認知

認知とは映画鑑賞者全体の中で、その作品のタイトルを「知っている」と回答した人の割合です。認知が30%の作品は、映画鑑賞者の10人に3人がそのタイトルを知っていることになります。

興味層

興味層は映画鑑賞者全体の中で、その作品を「興味はあるので観るかもしれない」、または「絶対に映画館で観る」と回答した人全体の割合です。その作品をすでに観た人は含みません。興味層は動員につながるポテンシャル層で、作品の露出があまりないタイミングでも比較的安定しています。そのため、意味のある指標ではありますが、本コラムのメイントピックではないため、別の機会で取り上げることにいたします。

意欲

意欲とは映画鑑賞者全体の中で、その作品を「絶対に映画館で観る」と回答した人の割合です。興収との相関が高く、作品をヒットさせるにあたり、最も重要な指標となります。その作品をすでに観た人は含みません。

ファーストチョイス

ファーストチョイスは映画鑑賞者全体の中で、その作品を「最も映画館で観たい」と回答した人の割合です。鑑賞意欲がある、即ち「絶対に映画館で観る」と回答した作品が複数ある場合、その中から1つ選択します。その作品をすでに観た人は含みません。

本コラムでのメイントピックではありませんが、ファーストチョイスも意欲と並び、興収と強い相関を示しています。特に競合作品が多い時期においては、「最も観たい1本」という意味において、大変重要な指標となります。ファーストチョイス、また、意欲に占めるファーストチョイスの割合(ファーストチョイス/意欲)については、また機会を改めて解説をしたいと思います。

意欲/認知

最後に、今回のメイントピックである意欲/認知について説明します。意欲/認知とは、その作品の認知層の中で、その作品を「絶対に劇場で観る」と回答した人の割合です。例えば、意欲/認知の値が10%であれば、「その映画を知っている人(認知)」の1割が、その作品を「絶対に映画館で観る」と思っていることになります。

認知や意欲は、公開規模の大きい作品や露出量が多くなれば、高くなる傾向があります。そのため作品間の比較をする際は、作品特性を踏まえた比較が必要となり注意が必要です。一方で、意欲/認知は、作品を知っている人に限定した割合となるため、作品規模や露出によらず作品間の横比較をしやすい指標といえます。

浸透度、歩留まりの関係

意欲、認知、意欲/認知の関係

意欲、認知、意欲/認知の3つには以下の関係式が成り立ちます。

意欲 = 意欲/認知 × 認知

興収と意欲は強い相関関係にあるため、興収を高めるためには意欲を持ち上げることが重要となります。上記の関係式から、意欲を持ち上げるためには、認知を高めるか、意欲/認知を高めるかのどちらかということが分かります。テレビ露出からの認知獲得が難しくなりつつある現状においては、ターゲット層の意欲/認知をピンポイントでしっかり高めることの重要性が増してきています。

また、上記の関係式を入れ替えると、以下のような形に変換できます。

意欲/認知 =  意欲 ÷ 認知

これは、認知者から意欲者への「歩留まり」を意味しています。つまり、作品Aと作品Bの認知が同程度に上昇した場合、意欲/認知が高い作品の方が意欲がより高まることになります。意欲が高まれば、興収を高めることができますので、意欲/認知を高めることは効率的に興収を拡大するために極めて重要です。

意欲の計算例

ある作品の劇場公開週末の認知が50%だとします。このとき、意欲/認知が6%の場合、「意欲=意欲/認知×認知」となるため、以下の式のように意欲は3%となります。

意欲=6%(意欲/認知)×50%(認知)=3%

同様に認知が50%、意欲/認知が8%の場合、意欲は以下となります。

意欲=8%(意欲/認知)×50%(認知)=4%

ここで、「意欲がたった1%ぐらい違っても大した意味はないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、意欲1%の違いは興収に大きな差をもたらします。次章では、「認知と意欲が興行収入に及ぼす影響」と題し、意欲の違いがどの程度興収に影響があるのかを解説していきます。


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