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非連続な変化(Disruption)と映画興行
公開日: 2018/03/09

グローバル映画興行市場のトレンド ~CineAsia 2017カンファレンスレポート(4)~

この連載は、2017年12月中旬に香港で開催された、世界各国の映画興行・配給関係者が集まるコンベンション「CineAsia 2017」内のカンファレンスICTA(International Cinema Technology Association)主催のセミナーのレポートです。
日本を含むアジア各国映画興行市場の特色、世界の映画興行のトレンドについて、20世紀フォックスのカート・リーダー氏が語ったセッション内容を5回に渡りお届けします。

※本記事で触れているサービス内容はカンファレンス開催(2017年12月)時点の情報です
 

スピーカー:
カート・リーダー(Kurt Rieder)
20世紀フォックス(Twentieth Century Fox)アジアパシフィック劇場配給担当上級副社長

非連続な変化(ディスラプション、"Disruption")。今回は、映画館の運営会社のお気に入りトピックを2点ご紹介しましょう。
ウィンドウ・ディスラプションとデジタル・ディスラプションの2つです。

ウィンドウ・ディスラプション:海賊版との闘いと韓国のケーススタディ

ウィンドウは2000年以降、どんどん短くなっています。我々はここ20年間で約40%の減少を経験してきました。ホームエンターテインメント関係の偉い方々に言わせれば、ウィンドウ期間が短くなることによって「”ダークゾーン”(劇場公開終了後、ホームエンターテイメント市場に出るまでの間コンテンツがどこでも見られない期間)をなくし海賊版を減らす」という成果をあげてきました。

スタジオの会計士によれば「我々やホームエンターテインメントビジネスのピークは2006年で、それ以降収益は下がっている。こんなに映画を製作しても、誰が製作費を出してくれるというんです?」というような問題もあります。チャイナマネーはまだ健在ですから、ホームエンターテインメントにも注目して製作費用を捻出しなければなりません。さもなければ、将来的には各スタジオが年間5本しか作品を公開できないことになってしまいます。誰の得にもなりません。

韓国のケーススタディを見てみましょう。彼らの”ウィンドウイング”は次のように展開します。劇場公開(28~49日)、スーパープレミアムVODウィンドウ(4週間)、プレミアムVOD期間(10~12週間)、標準VOD期間(24週間)、2次VOD期間(12か月)、ライブラリ(12か月)です。

こういった手法で展開する映画の市場シェアは87%になります。
そして、彼らはこの手法で3年以上もやってきています。韓国は人口一人あたりの映画館来館回数がアジア最高の4.2回であり、ここ3年ほどはその水準をキープしています。と言うことは、韓国での施策が奏功しているということになります。

デジタル・ディスラプション:デジタルテクノロジーによる破壊的なイノベーション

コンテンツは、いま、どこでも見られます。デジタルで動画を視聴する人の数は、2020年にはアジアパシフィック(アジア太平洋)だけで13億人に達する勢いです。OTTセクターは3倍の規模にまで成長すると見込まれており、それによって多くの“”新しいものが生まれます。

例をあげるなら、オリジナルのARやVR、ライブ配信、そして一回ごとに取引をするVODでなく、定額制またはTiVO(内蔵のハードディスクにテレビ放送を録画する家庭用ビデオレコーダ)で利用するハイブリッド型のプラットフォームなどが一例です。「Netflix」の脅威が必ず話題にのぼりますが、現在までのところは「Netflix」はまだテレビ番組と同義です。アメリカにおける下半期のレーティングを見てみると、テレビシリーズばかりなのがわかります。支出のほうでは、2017年のコンテンツ関係の支出の95%が、映画でなくテレビ番組に対するものです。その一方で「Amazon」は伝統的なスタイルです。「Amazon」は劇場公開を重視し、配給を手がけた作品がオスカーにノミネートされ、受賞も果たしています。

こういった新しいサービスの登場は、アジアでは重要な要素です。それはなぜなのかと言うと、アジアはデジタル化が始まったのが遅く、いま急激に進んでいる。負の遺産と言うべき古いシステムはありません。そのため、アジアはヨーロッパを跳び越え、デジタルを組み入れるスピードに関しては、南北アメリカをも抜き去ろうとしているのです。

ただし、現在のところ危険信号が出ているわけではありませんが、インドの例のようにブロードバンドの価格が急速に下落していることを考えても、かなり早い時期に「デジタル・ディスラプション」が起こることは留意しておかなければならないでしょう。

皆さんの中にデジタルネイティブはいらっしゃいますか?小さなお子さんからミレニアル世代までがそうですよね。こういった方たちをひと言で言うと、スマホばかり見て会話を台なしにする方たちだということは、我々なら皆知っていますね。

外食も台なしにしてくれる。しかもしょっちゅう。迷惑な話です。はっきり言って、ロマンスだって台なしにしているのですから、このまま彼らに映画館を台なしにさせるわけにはいきません。協力して、彼らに映画館に足を運ばせ、積極的なエンゲージメントを醸成しなければならないのです。


これには彼らが接するスマートフォンを利用します。彼らはスマートフォンの中で生きていて、もはや身体の一部でもあります。スマートフォンのファインダーを通さなければ、何も経験できなくなっているのです。ちょっと常軌を逸していますよね。

 

スマートフォンのせいで、ミレニアル世代が何かに注意を向けられる時間はわずか8秒であることが、研究でわかっています。金魚だって8秒間は何かに注意を向けられるのに、ですよ(笑)。映画製作者には、上映時間を決定する際にこの事実を念頭に置くよう促す必要があります。

そして、デジタルネイティブやミレニアル世代を捕まえる手段は“データです。あらゆるものがデータです。我々はグーグルやメディアエージェンシーともつきあいがありますが、実際には映画館にこそ最高のデータがふんだんにあるのです。それなのに、我々はそのデータを手にしようともしていません。お客様たちがどのような方で、おいくつで、皆さんのデータシステムを活用してどんな宣伝活動ができるのか。そんなことを知ろうともしていないのです。

 

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