予告編ローンチから始まる実際の分析アプローチ
公開日: 2019/04/19
行動科学とデータサイエンスの融合によって「映画鑑賞者の行動パターン」探る本セッション。第2回は実際の分析アプローチに踏み込みます。取得した大量の定性データをどのように扱うのか。それは一体どんな役に立つのか。効果的な方法とは? オーディエンスを劇場へと向かわせるために理解すべきことが、メディア心理学者のパメラ・ルートリッジ博士の口から次々と飛び出します。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2018年12月)時点の情報です
分析を左右するデータの“質”と“関連度合い”
ベッティーナ・シェリック(20世紀フォックス)
ルートリッジ博士との仕事は、常に第1弾の予告編を公開した時にスタートします。まず、Facebook、Instagram、Twitter、YouTubeなどのコメントデータを取得して、データを整えます。そして、博士にそれをお渡しして分析を開始していただくことになります。ルートリッジ博士、データを受けとってから何をされるのかをここでお話しいただけますか。
パメラ・ルートリッジ博士
まず、いつも素晴らしいデータを用意してくださりありがとうございます。
分析は2つの要素に影響されます。“データの質”と“求める課題に対するデータの関連度合い”です。いただいたデータに応じていかような結果をお出しすることもできますが、それは必ずしも有用とは言えません。
私が使用するのは定量データではなく、主観的データやテキスト、画像などといった定性データです。定性データを定量化してしまう方は大勢いますが、私はしません。ただし、非常に大きなデータセットを定性的な意味合いを消すことなく処理してくれるソフトを使うことはあります。
使用しているのは「Leximancer」と呼ばれるデータ間の相互関連性を解析してくれるソフトです。そのほか、相互関係性だけでなく、特定トピックの深掘りや、必要に応じて視点を切り替えて表示できる市場分析ソフト「Quid」も使用します。ローデータの処理が済んだら、心理学的理論を参照して仮説を立てて、何が起きているのかを検証することになります。
期待値は探るだけでなく、上げることも可能
ベッティーナ・シェリック(20世紀フォックス)
博士から頂いた報告書には作品毎に異なる示唆がありますが、今日は特定の作品の話は控えます。しかし、この分析による気付きをいくつかご紹介できればと思います。これらのおかげで、SNS上の会話をより正しく理解することが可能になりました。
まずは意向を示す言語表現についてご紹介しましょう。世の中には、「すごい、絶対に観たいっ」や「面白さって何か分かってる? こんなんじゃ観る気にならないよ」などと言う人がいますよね。博士はこういった表現から、発言者が購入決定までのプロセスのどこにいて、作品がどのように認知され、発言者がどう考えているかが分かるとおっしゃいました。そして、表面に現れるよりはるかに多くの情報が、その背後に隠れていることも教えていただきました。
パメラ・ルートリッジ博士
これは非常に重要なポイントです。言語というものに関して覚えておかなければならないのは、それは何かを思い浮かべた後で発生するプロセスであるということです。行動は視覚化から始まり、言語はその後についていくのです。
私が常に探すのは、言語から伝わる、視覚化された情報が何であるかです。劇場に対してどのような関わりがあるのか? 自分たちの行動を思い浮かべているのか? 他者と一緒にいるイメージなのか? 子どもと一緒なのか? 自身を想定していない発言なのか?
劇場に対する関係性、つまり、自分が行く場所として意識できるほど劇場が身近な存在であるかなどを示唆する言語を探します。劇場に行く自分を想像できなければ、実際に足を運ぶことはありません。
また、言語の面白いところは、期待値を探ることができるだけでなく、期待値を上げることも可能なところです。皆さんもご経験のことと思いますが、誰かが微笑みかけてきたら、自分も微笑み返すものです。人はかけられた言葉を模倣しがちなのです。お客様の言葉の背後にある意向が分かれば、お客様が劇場に行く自分をイメージできるようなクリエイティブ制作ができるはずです。
フレームの理解が効果的なコミュニケーションにつながる
ベッティーナ・シェリック(20世紀フォックス)
今の博士のお話を伺うと、以前博士のおかげで理解が深まった、“フレーム”や“再フレーム”といった概念に行きつきます。簡潔にご説明いただいたおかげで、我々はお客様だけでなく社員に対しても自身の考えを再構成(再フレーム)させる方法や、データの捉え方が分かってきました。この点についても、少しお話しいただけますか。
パメラ・ルートリッジ博士
皆さんはフレームというコンセプトをご存じのことと思います。認知スキーマ、メンタルモデル、パラダイムなどと呼ばれる“枠組み”のことです。基本的にコメントを分解していく際にまず探すのが、発言者はどのようなフレームで話をしているかです。人が情報を咀嚼する時には、必ず入手した情報をそれぞれのフレームの中で処理します。私たちは自分のフレームで因果関係を解釈し、他者の意向を理解します。
オーディエンスのフレームを理解しなければ、効果的なコミュニケーションはできません。もしフレームが自分たちの意向とずれていたら、何が乖離しているかを解明する必要があり、そこで初めて選択することになります。説得力のあるコミュニケーションで相手に再フレーム化を迫るか、そうでなければ自分たち自身を再フレーム化するという選択です。このプロセスはオーディエンス中心であり、成功を収めるには自分たちのフレームよりも相手のフレームの方が格段に重要です。
ここで、再フレームに必要なステップについて触れましょう。認知行動療法においては対立や和解なども重要ですが、ここで必要なのは相手に自身がフレームを持っていると自覚させることです。そして、誰しもそれぞれのフレームがあり、誰のフレームも同等に正当なものであることを自覚してもらうのです。そうすることで対等に意見を持つことができ、比較分析して差異を理解し乖離を埋められるのです。往々にして、消費者でなくマーケティングチームの方を再フレーム化しなければならないことも少なくありません。
特集:人はなぜ映画を観に行くのか? 消費者行動を理解する強力な秘密兵器
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