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VODビジネスで勝つ方法 - 「衝動買い」を促す「発見」
公開日: 2017/02/17

VOD(動画配信ビジネス)の未来~アメリカの現状~(3)

2016年のAFM(American Film Market)において開催されたカンファレンスでは、”Future of Video On Demand”というテーマのもと、映像コンテンツのプロデューサーや配給会社、配信プラットフォームのキープレイヤーたちが、どこで利益が出ているのか、どのように稼いでいるのか。それぞれの立場と現状をもとに議論したものまとめた第三回目。

 

モデレーター:

ブルース・アイゼンDigital Advisors 代表)

 

パネリスト:
スティーブ・ニッカーソンBroad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 )
エリック・オペカCinedigm /デジタル・ネットワーク部門EVP )
へニー・パテル( AT&T Entertainment Group /ビデオ・マーケティング部門VP )
メイヤー・シュワルシュタイン( Brainstorm Media代表 )

鑑賞行動とは“衝動(impulse)”なのか?

既存プラットフォームである放送の品ぞろえの見せ方のバリエーション、マーチャンダイジングには限界がある。
ネット配信サービスであればいろいろな見せ方ができるし、検索して見つけたらマウスを数クリックするだけで見ることもできるが、これにも変化が起こりつつある。

 

エリック( Cinedigm /デジタル・ネットワーク部門EVP ):
ケーブルテレビ会社と衛星テレビ会社のコンテンツ販売について考えてみましょう。テレビのリモコンを使い、プログラム・ガイドでコンテンツを売ることには様々な規制があります。一方で、AmazonやiTunes、Googleは、トップページで様々な方法を用いてコンテンツをフィーチャーできるだけではなく、1~2クリックのマウス操作で簡単に何かしらを見つけられるのです。

人々がひたすら検索し続けるような非常に訴求力の強い作品もありますが、多くの作品は衝動買いされるものなのです。衝動買いにおいてはスピードが命で、もし迅速に見つけられなければ、再び探すことはあまりないでしょう。何か別の作品を見つけて、そちらに乗り移るだけです。

これは、消費者が小売取引から電子取引にシフトするにつれて、最も厄介な問題となっています。売り場の壁は限りなくあるものの、スペースは極めて限られているからです。私の同僚が、5歳と8歳の息子たちをビデオ店に連れて行ったのですが……。

 

ブルース(モデレーター)
まだ、アメリカにビデオ店があるのですか?

エリック:
中西部には残っていたのです。大型ビデオチェーンのなかで最後まで生き残っているビデオレンタルチェーン「Family Video」です。子どもたちは、それまでビデオ店を見たことがなかったので、たくさんの映画を一度に見渡せるスペースを見て、まるでクリスマスのようだと感動していたとか。スマートフォンでも、大きなテレビ画面でも実現できない体験です。

見たいコンテンツをいかに「発見」してもらうかは大きな課題

キュレーション強化だけでなく、過去の視聴履歴などを基におすすめすることも効果をあげている。
 

へニー( AT&T Entertainment Group /ビデオ・マーケティング部門VP ):
コンテンツを発見しやすくするということは、とても重要なことです。私自身、DirecTVに努めていながら、見たいコンテンツにたどり着くまでのクリック数の多さに辟易することがあります。弊社では今、ユーザー・インターフェースをより使いやすくシンプルになるよう、メニュー・デザインを改善中です。マウス・クリックではなく、スクロール・パッドを使えるようになります。

私たちは今、技術的な観点から、テレビ視聴体験を完璧なものにし、見たい作品を発見しやすくすることに注力しています。オン・デマンドの側面だけに集中するのではなく、「あなたはこの作品を見たので、似ている作品をおすすめします」というレコメンド機能に注力し、ユーザーの視聴履歴に基づいて魅力的なコンテンツを発見しやすくする工夫をしています。

消費者へのコンテンツ提案には、鑑賞履歴だけでなく、コンテンツ鑑賞のコンテキストを考慮することも重要

いつ、どんな気分で、何をしているときに、どのデバイスで見ようと思っているのか、それは見たいコンテンツによって変わる。
 

スティーヴ( Broad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 ):
私たちのような会社は、消費者にコンテンツを直接届ける立場にあります。「この映画が好きなら、他のユーザーの視聴履歴傾向から、この映画をおすすめします」というだけではなく、視聴体験のコンテキストを考慮することが大切です。

例えば、もし私にホラー映画視聴履歴があるとしても、朝8時のロングアイランドを走る電車のなかでのビデオ・アプリによる視聴であれば、ホラー映画ではなく軽いタッチの短いコンテンツをレコメンドするべきでしょう。逆に、夜にリビングでテレビの前に座っているとしたら、ホラー映画をレコメンドするのが妥当と言えます。

適切なレコメンドには、コンテキストがすべてだと思います。それはユーザーの視聴履歴だけではなく、ユーザーがどこで何をしていて、どのデバイスで見ようとしているのかということ。今はまだ、そうしたデータの獲得・活用がうまくできている会社は少ないと思いますが、そのうち進歩していくでしょう。

環境の変化、特に消費者にとっての選択肢の増加にはコンテンツ事業者も対応が必要

検索機能だけでなく、マーチャンダイジングも強化すべきだ。消費者の検索だけに頼ったら、インディペンデント映画は死んでしまう。なぜその映画を見るべきなのか、きちんと消費者に情報提供すべきだ。いまはコンテンツ編成の考え方も変革の時期にある。

メイヤー( Brainstorm Media 代表 )
私たちは変化のなかにあると思います。まだ、初期段階にいるのです。業界では人口変化が起きており、人々は高齢化しています。

若い世代の習性は、年配世代とは違います。今は、テクノロジーの変化の最中なのです。昔は、住んでいる場所に応じて、決まったサービスの会員になるしかないという、制約のある環境だったと言えます。ワイヤレス端末が登場し、そうした制約がなくなり、プロバイダーのチョイスが広がるにつれ、マーケティング戦略面における競争力が増してきました。そうした状況のなかで、もし消費者検索だけに頼っていたら、インディペンデント映画の多くは死んでしまうでしょう。

私たちが人々に、作品の存在、その映画がその場所でリリースされている理由、その映画にお金を払う価値、または様々なプラットフォームにて無料で見られる意味を伝えられたら、本当の意味で映画をサポートすることができると思います。私たちや皆さんは、新しい映像視聴体験の進化に貢献できる特権を持っているのです。

<(4)VODビジネスにおける著作権侵害・海賊版の問題点は に続く>

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