記事

Netflixの変化(前編)
公開日: 2020/02/07

Netflixが描く映画業界の未来
~Netflix映画部門トップ基調講演~ 第2回
Netflixの変化(前編)
~『ROMA/ローマ』『アイリッシュマン』における劇場公開ウィンドウの設定~

 

2019年12月にロサンゼルスで開催されたカンファレンス“Variety's INNOVATE”より、Netflix映画部門トップ、スコット・ステューバー氏による基調講演“Keynote Conversation with Netflix Films' Scott Stuber”をレポート。

連載第2回は、劇場公開や製作費に対するNetflixの考え方を、ビジネスモデルの違いに焦点を当てて紐解いていきます。昨年の米アカデミー賞で物議を醸した『ROMA/ローマ』の劇場公開の背景や、製作費1億6000万ドルとも言われる『アイリッシュマン』を例にしたリクープ方法や評価指標の違いを、同社映画部門責任者スコット・ステューバー氏が明かしました。

 

※本記事で触れられている内容は2019年12月時点の情報です。

 

《目次》

 

世界同時配信か、劇場公開か、Netflixの下した選択

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
Netflixの話題作は劇場公開する価値があると、あなたは上司であるテッド・サランドス(Netflixコンテンツ最高責任者)を説得する必要があったのではないでしょうか。というのも、彼は以前、頑なに「すべての作品はNetflix上で同時にリリースされるべきである」と話していたからです。『ROMA/ローマ』公開の際、もしくはそれ以前、あなたはテッドに「劇場数を絞った限定公開には価値がある」と進言されたと思います。困難を伴う交渉だったと思いますが、どのように説得されたのですか?

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
まず、ご理解いただきたいのは、彼らは消費者目線に立った素晴らしい企業をつくったということです。消費者が王様であり、消費者が出資者であるビジネスモデルなのだということを、Netflixでは常に肝に銘じなければなりません。この点が、スタジオが会社として力を持つ従来型のビジネスモデルとは異なるモデルです。

皆さんが支払う10ドルの月額利用料がコンテンツ製作費用になります。一方で、消費者が10ドルの対価として関心を持つのは、あるコンテンツをすぐに視聴できるのか、それとも待たなければいけないのかということです。従来の劇場公開ウィンドウの場合、10ドルを支払っていても、鑑賞するには15ドルを支払って映画館の席をとるか、視聴するまでに90日待たなければなりません。だとしたら、10ドルは何のための費用なのか、ということです。消費者への価値提供としてあまり感心できないですね。こんな言葉遊びみたいなことから脱却するにはどうすればいいのでしょうか。

突き詰めれば、問題は優れた映画であるか否かです。議論はそこに尽きるべきなのです。それは素晴らしい作品なのか。『ROMA/ローマ』は優れた映画だと思ったので、ふさわしい公開方法を検討しました。消費者ベースである我々のビジネスモデルを守る観点が大半でしたが、広がりをもたせる議論もしました。

幸運なことに我々は正しい結論を出しました。我々が考えていたのは、1カ月ないし、3~4週間であれば、そこに広がりが生まれ、消費者に選択の余地を与えられるということです。そうすることで、我々が消費者に提供している価値を損なうことなく、映画にプラスの効果をもたらすことができるのです。

消費者は映画館でも、自宅でも、午前5時にランニングマシーンで走りながらでも、場所を問わずに映画を鑑賞できます。限定公開は、2つの価値体系を網目状に絡み合わせることではなく、むしろ両方の観点に寄与する考えでした。そういったことを、テッドやアルフォンソ(・キュアロン、『ROMA/ローマ』の監督)と常に協議し、どの程度のスピードで対応していくべきかを見極めるようとしていたのです。我々はこれまで成功していると思いますし、これからも継続していくつもりです。

 

 

 

ビジネスモデルの違いが『アイリッシュマン』製作の鍵

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
もうひとつ、お聞きしたいことがあります。Netflixはいかにして、製作費に1億6000万ドル、マーケティングや配信、配給費用に数千万ドルもかかる『アイリッシュマン』のような作品を製作できるのでしょうか。どのようにして費用を捻出しているのですか。しかも、限定公開のような形で、なぜ採算が取れるのでしょうか。私には全く理解できません。これは私見であると同時に、報道に携わる多くの人を代弁していると思っています。

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
ビジネスモデルが異なるからでしょう。つまるところ、従来型のスタジオは映画館での興行収入で成り立っています。そういうものなのです。従来型のモデルは、劇場公開がすべてのけん引力であり、その他の鑑賞手段が続きます。

なお、Netflixのような、契約者ベースのビジネスモデルにも内部指標はあります。他のスタジオを経営する友人からは、「トラッキングや公開週末興収などの心配をする必要がなくていいね」と言われますが、それは事実ではありません。我々も同様に内部指標を追っているのです。すべての指標に目を配り、消費者を分析しています。今週末にノア・バームバック監督の『マリッジ・ストーリー』のリリースを控えているのですが、マーケティング会議で提出された指標にはすべて目を通しました。

公開されれば、そのあとは非常に類似しています。ワーナー・ブラザースの『ジョーカー』を例にとれば、トビー(・エメリッヒ:ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ・グループ会長)やブレア(・リッチ:ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ ワールドワイド・マーケティング プレジデント)が作品を世に送ると、財務部門は利益を出せと言ってくるのです。あの作品は大成功でしたね。ともかく、それが従来型のスタジオのやり方です。「これだけ製作費がかかるなら、これくらいの観客動員数が必要だ」と言うようなものです。

我々には契約者情報があるので、それを見ればオーディエンスの幅が分かります。それで、「これだけの製作費がかかったのだから、これだけの視聴者数が必要だ」となります。非常に似通っているのです。

一方で、異なる指標も扱っています。例えば、既存オーディエンスのことは分かっていますが、新規オーディエンスを開拓できているのか。視聴頻度の低いオーディエンスにも刺さるか。新規契約につながるのか。視聴者数をはじめ、これらの指標は作品ごとにすべて異なります。好奇心を刺激する作品なのか。今までとは違う感想が出ているのか。新たな側面はあったのか。我々は様々な観点から価値を判断しています。

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
なるほど。とはいえ、Netflixは結局のところ営利企業なわけですから、利益を上げなければなりません。そのためには、『アイリッシュマン』を始めとする大作が赤字にならないように、極めて多数の契約者を獲得する必要がありますよね。

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
アイリッシュマン』をリリースして最初の週末が過ぎましたが、ありがたいことにヒットと呼べる道筋に乗っていると感じています。現時点での結果には、非常に満足しています。

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
そんな情報を共有してもらえてうれしいです。

 

[笑い声]

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
ちらっとお見せしましょうか?

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
それは結構ですが、このお話はぜひしておきたいので、後でこのトピックに戻りましょう。

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
この作品のようにすべてがうまく運べば、皆が満足できます。皆さんに観ていただきたい、非常に素晴らしい作品です。優れた製作陣と演者の力を結集した作品ですので、未見の方がいらっしゃれば、ぜひご覧ください。

あのレベルの投資を行うのであれば、最高のキャストとスタッフが、最高の仕事をした作品にしたいと考えるものでしょう。『アイリッシュマン』のマーティン・スコセッシ監督は、あのキャスト陣を迎えて傑作をつくりあげました。実に、スコセッシ監督らしい、素晴らしい作品です。ありがたいことに、現時点では作品としての質でも収益の面でも期待どおりとなっています。Netflix にとって素晴らしい作品となりました。