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映画業界全体の未来に向けて
公開日: 2020/04/07

Netflixが描く映画業界の未来
~Netflix映画部門トップ基調講演~ 第6回
映画業界全体の未来に向けて
~あらゆる映画や才能に機会を~

 

2019年12月にロサンゼルスで開催されたカンファレンス“Variety's INNOVATE”より、Netflix映画部門トップ、スコット・ステューバー氏による基調講演“Keynote Conversation with Netflix Films' Scott Stuber”をレポート。

連載第6回は、Netflix映画部門責任者のスコット・ステューバー氏が映画業界に託す想いを明かすとともに、今後乗り越えていかなければならない課題について触れます。業界全体を良い方向に変えられることを信じ、すべての人にとって適切な方法を模索する同氏。特集の最終回では、ステューバー氏を突き動かす強い願いが紐解かれます。

 

※本記事で触れられている内容は2019年12月時点の情報です。

 

《目次》

 

あらゆる映画や才能にチャンスを

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
製作費6000万ドル、国内での宣伝費用3000万ドルを投下した作品が、必要な興行収入に届かず上映を終えるとします。その場合、投下した宣伝費用を回収し、採算をとる機会を得なければなりません。

ここで重要なのは、映画館サイドに負担をかけることなく、実現方法を模索することです。ある方法を実施した場合、映画館サイドのビジネスモデルに割り込むことにはならないかを、しっかりと検討するのです。加味しなければならない要素は少なくありませんが、それでもやらなければなりません。劇場上映は我々のビジネスではないからです。今この瞬間にも、オーディエンスの規模を拡大できず苦闘している準大手、中堅のスタジオは数多く存在しています。

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
規模を問わず、どのスタジオにもその問題を抱えているように思います。

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
これは業界全体の問題です。我々にも他社にも関わってきます。適切に対策できれば、映画ビジネスをよい方向に変えられるはずです。様々なアイデアを出し、テクノロジーの手を借りてテストしていくべきです。

Netflixの素晴らしさのひとつはテクノロジーの活用が得意な点です。我々は実際に取り掛かる前に検証します。テストを行い、それが有効かどうかを判断するのです。見込みがあれば、正式に実施することになります。見込みがない場合でも、完全にやめる必要はありません。要素をいくつか検証し、双方にメリットのあるのは何かを見極め、誰にとってもビジネスになるようなアングルを探すのです。

願わくばいつか、誰にとってもメリットのある方法が見つかる時が来ると思っています。私は楽観的な人間で、あらゆる映画や才能にチャンスを与えるべきだと思っています。映画界には才能を開花させる機会を待っている人が多く隠れています。ですから、誰かが彼ら、彼女らにその才能を開花させるチャンスを与えなければなりません。私は有効なビジネスモデルを提供して、そういった人たちが素晴らしいキャリアを長期的に築いていただくことを願っています。

 

 

 

若い才能は既に登場している

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
スタジオを一から設立するのは、難度の高い一大プロジェクトでしたが、あなたにとっての最大の課題は何でしょう? 現時点でのお考えをお聞かせください。直近の未来、またはもう少し先を考えた時に、何が最大の障壁になるとお考えですか。

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
最大の課題のひとつは、すべての作品が一からのスタートになることです。ハリー・ポッターやDCコミックスなどの有名キャラクターの作品ではないため、事前に取り込めるオーディエンスはいないからです。それが常に課題となりますが、私はエキサイティングだと考えています。すべてがハロー効果など望めないオリジナル作品ですから、質の点でそういった作品を上回る必要があるのです。

継続的に優れた映画製作者と契約し、進化を続けていくことは、非常にエキサイティングです。容易でないことは承知しています。NetflixやAmazon、Apple、ジェフリー・カッツェンバーグの会社など、実に多くの企業がこの業界に進出しています。スタジオもある種、進化の方向を変えています。若く才能のある人がこの業界に飛び込むには、今は絶好の機会でしょう。

このような状況は久しくありませんでした。映画製作にとって今後10年は素晴らしい時期になると思っています。本心です。イノベーションや素晴らしい脚本があり、次世代のキャスリン・ビグローやスパイク・リー、マーティン・スコセッシになる若い才能が登場することになるでしょう。ルル・ワン(『フェアウェル』)のような監督が現われています。メリーナ・マツーカス監督の『クイーン&スリム(原題)』も観ました。ダファー・ブラザーズ(「ストレンジャー・シングス 未知の世界」)や次世代を担うことが期待される若い才能は、既に登場しているのです。

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
素晴らしい。本日はお越しいただき、本当にありがとうございました。

 

 

 

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