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「グローバル視点から考える日本グッズ市場の可能性」レポート
公開日: 2025/03/10

特集:ライブ・エンターテインメントEXPO 2025 第1回

コンサート、フェスなど各種ショーの関係者が集う「第12回 ライブ・エンターテイメントEXPO」(会期:2025年1月22日~24日 会場:幕張メッセ)にて1月23日、特別講演「グローバル視点から考える日本グッズ市場の可能性」が行われました。本講演では、日本のエンタメグッズ市場の強みと課題、海外市場での成長戦略、越境ECの可能性について議論が交わされました。本記事では、その一部をレポートします。

※本記事で触れられている内容は2025年1月時点の情報です。

パネリスト
堀内 伸彦
ユニバーサル ミュージック合同会社 BRAVADO事業部/DRC合同会社POP-UP&RETAIL事業部:部長/シニアマネージャー

直井 聖太
BEENOS株式会社:代表取締役 執行役員社長 兼 グループCEO

モデレーター
木村 彩乃
フリーアナウンサー

《目次》

 

 

エンタメ関連商品が越境EC市場拡大のカギ
映像・音楽ともに配信プラットフォームと連動した即時性に注目

冒頭、越境ECサービスをサポートするBEENOSの直井聖太氏が、市場の概況について共有しました。同社を通じた国際間取引流通金額が、2008年の創業から2024年9月までに900億円を突破したことを発表。今後も越境EC市場は拡大する見込みで、2030年には市場全体で約9兆ドルにまで成長すると予想しました。さらに、直近の越境EC市場の変化について、「2017年までは中国への輸出がほとんどで、家電が主力製品でした。しかし、コロナ禍以降、北米が中国を抜いて35%を占める巨大市場に発展しました」と明らかにしました。

また直井氏は、最も流通している商品ジャンルが、エンタメコンテンツ関連であることを共有し、「日本のエンタテイメントが市場拡大のカギとなっています」と語りました。特にデジタル配信連動の即時性について注目しており、「Netflixでアニメの配信がスタートしたら、即座にその関連商品が検索され、売上が急上昇することもあります」と説明しました。

さらに、音楽においては、K-POP関連グッズの購入件数がトップであると発表。「K-POPアーティストの日本限定グッズを求めて、海外のファンが日本のEC経由で購入するケースが多々あります」。一方、邦楽では、2023年にSpotifyからローンチされた、日本のポップカルチャーを世界に発信することを目的とした公式プレイリスト「Gacha Pop」が世界的に注目されているといいます。そして、Spotify上でジャンルとして確立したことで、関連グッズの購入件数が伸長していると語りました。

 

音楽配信サービスの普及でアーティストの海外進出の敷居が低下、日本市場向けグッズが海外で人気

世界150以上のアーティストと契約し、国内外でのマーチャンダイジングを手掛けるユニバーサル・ミュージック。同社の堀内伸彦氏から、アーティストとファンを繋げる事例として、『ビリー・アイリッシュ』の日本公演におけるグッズ開発を紹介しました。「サステナビリティを重んじるアーティストの意向に沿って、グッズの素材から企画することもあります。ビリー・アイリッシュのツアー『HIT ME HARD AND SOFT』では、すべてのグッズが再生ポリエステルやオーガニックコットンなどエコな素材で作られました。特にTシャツは、前回売れ残ったものを裏返して染め直して作っています」と海外アーティストのグッズ展開ならではのトレンドに触れました。

一方、堀内氏はユニバーサル・ミュージックで、日本アーティストの海外マーチャンダイジングにも注力していることを強調し、日本の音楽業界で高まる海外進出の傾向について共有しました。「昨年、『Ado』は11カ国14都市でツアーを行い、『藤井風』もアジアツアーやアメリカ公演など複数の海外公演を成功させ、海外ファンを獲得しました。以前は、海外公演が一種のステータスであったり、日本で話題を生むために行われる傾向がありましたが、今では外貨を稼いだりファンを獲得するための1つのビジネスとして成り立っています」と指摘しました。また、近年は海外進出のハードルが下がり、海外進出を希望するアーティストが増えているとしました。「配信サービスの普及により、日本のアーティストが海外で評価される機会が増えています。今までは海外展開するには、北米のレーベルと契約が必要で、北米アーティストとの競争がネックでしたが、配信やソーシャルメディアのおかげで、直接アジアや南米でも展開できるようになり、より海外進出の敷居が低くなりつつあります」とし、事例が多くなることで、海外進出を希望するアーティストが、今後より増えていくだろうと予想しました。

また、堀内氏は海外販売の最適化に向けた取り組みについても語りました。「北米や、ヨーロッパなど地域に合わせて商品をローカライズすることもあります。しかし、日本の商品だからこそ、魅力に感じてもらえることもあるので、日本向けに作ったグッズをそのまま海外で販売すること方が受ける場合があります」。BEENOSの直井氏も、海外での日本オリジナルグッズの人気について賛同。「VTuberの『森カリオペ』が海外でグッズ販売を行った際、日本向け商品のままで、北米では日本の2倍以上売れました」と強調しました。

 

アーティストの熱量がファンに伝わるとグッズは売れる

セッションの後半では、アーティストの海外展開において、どの国や地域で活動すべきか、市場の選定について議論されました。堀内氏は「配信サービス、SNSのデータから、どこの地域でインパクトが大きかったのか特定していますが、偶発的にヒットすることが多く、予測するのはまだまだ難しい状態にあります」と打ち明けました。

また堀内氏は、グッズの在庫確保に関して、SNSのフォロワー数や、ファン同士の会話から、エンゲージメント・熱量を測るなど、蓄積されたデータから在庫量を決めているものの、なかなか最適な在庫数になることはなく、皆に行き届くように多めに確保していることが多いと現状を語りました。そのうえで、アーティストのモチベーションが重要だと訴える同氏。「アーティストが熱量を持ってグッズ開発に携わっていることがファンに伝わると、予想以上に売れたというケースが多くあります」。アーティストとのコミュニケーションを重ね、その熱量を受け取り、ファンに伝えることで、より大きな盛り上がりが生まれると明かしました。

今回のディスカッションを通じ、日本のエンタメグッズがグローバル市場に拡大する可能性が十分にあることが明らかになりました。ユニバーサル・ミュージックの堀内氏は、曲だけではなくアーティストが生み出すグッズ、サービス、イベントを国内外にシームレスに届けることで、「本当の意味での海外進出」が実現できると指摘しました。また、BEENOSの直井氏も「グッズを待っているファンのために、商品企画者やアーティストがもっと輝けるような土台を提供してサポートしていきたい」と越境ECとエンタテイメントの協力関係について改めて強調し締めくくりました。

 

特集:ライブ・エンターテイメントEXPO 2025
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  • 第2回:「日本のライブ・エンターテイメント産業の進化と可能性」レポート近日公開
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