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「日本のライブ・エンターテイメント産業の進化と可能性」レポート
公開日: 2025/03/11

特集:ライブ・エンターテインメントEXPO 2025 第2回

コンサート、フェスなど各種ショーの関係者が集う「第12回 ライブ・エンターテイメントEXPO」(会期:2025年1月22日~24日 会場:幕張メッセ)にて1月23日、特別講演「日本のライブ・エンターテイメント産業の進化と可能性」が行われました。ワーナーミュージック・ジャパンの北谷賢司会長、STARTO ENTERTAINMENTの福田淳CEOにより、世界のライブ・エンターテイメント産業の流れを踏まえたうえで、日本における市場拡大に必要な視点やグローバル戦略について議論が交わされました。本記事では、その一部をレポートします。

※本記事で触れられている内容は2025年1月時点の情報です。

パネリスト
北谷 賢司
株式会社ワーナーミュージック・ジャパン/DAZN Japan Investment合同会社:会長/チェアマン

福田 淳
STARTO ENTERTAINMENT/株式会社スピーディ:CEO

《目次》

 

 

デジタル時代のライブ・エンターテイメント市場と日本の立ち位置

ワーナーミュージック・ジャパンの北谷賢司氏が、グローバル音楽産業の成長率について共有するところから講演が始まりました。「2023年から、毎年前年比16.1%のペースで成長し、2030年には11兆円にまで拡大すると考えられています」。同氏は、日本のマーケットも右肩上がりであることを示す一方で、日本のアーティストがグローバルで活躍することの厳しさについて指摘しました。

北谷氏は、2024年のグローバルでのチケット売上ランキングについて、『テイラー・スウィフト』が2位と大差をつけトップになったことを共有し、2位に『ビヨンセ』、3位には『ブルース・スプリングスティーン』がランクインしたことを明かしました。そして、近年日本で大流行しているK-POP、さらにはJ-POPが上位に入っていなかったことを強調。それを受けて、STARTO ENTERTAINMENTの福田淳CEOは、グローバルでのシェア拡大について「文化を越えてマーケットを開拓していくのが、日本の課題です」と示した上で、「アジアなど日本と親和性の高い国や地域に向けてマーケティングしていくのが良いと考えます。巨大マーケットに売り出すのではなく、アーティストのブランドテイストに合った国や地域から広げていきたいです」と訴えました。

福田氏は、日本の音楽市場がグローバルと比較すると、まだ小規模であることを確認したうえで、秘めているポテンシャルについて言及しました。「音楽市場の構成のなかで、日本はCDが占めている割合が極めて高いのです。ストリーミングがまだ伸びる余地があると考えます」とし、また、マーケティングの手法の変化についてコメントしました。「今までは、国ごとにマーケティング戦略を練っていましたが、TikTokの誕生によって、世代や価値観ごとのマーケットが形成されています」。そのうえで、従来のマーケティングではなく、アテンションマーケティングを強化することの重要性を訴えました。「消費者がこの瞬間からクリエイターになり、TikTokのコンテンツを作って世界に発信していけるのです」。

 

グローバルとの比較から日本音楽業界の課題が浮き彫りに

北谷氏は、日本におけるライブ・エンターテイメントの課題として、その業界構造に着目。「グローバルでは、ライブの出演交渉を担う専門の代理人として『ブッキングエージェント』が存在しますが、日本は特殊で、同一の組織が複数の役割を担っています」と切り出しました。福田氏も同様に、「海外に日本のアーティストを売り出していくには、海外に強い日本のブッキングエージェントの存在が必要不可欠です」と強調しました。福田氏は続けて、ブッキングエージェントが日本で普及しない原因として、アーティスト側が興行側に営業をかける機会が少ないこととし、それはテレビの強さが影響しているのではと推測しました。「今まではテレビにアーティストが出演すると、コンサート会場など興行側から声がかかり、こちらから売り込むという機会が多くはありませんでした。しかし、インターネットの登場で、そういった手法は変えていく必要があると感じています」と語りました。

北谷氏は収益構造の違いについても言及。グローバルではアーティストの報酬が約7割であるのに対し、日本はアーティストへの還元率が低いという現状を共有しました。福田氏はその理由について、「日本は設営費が非常に高く、それを販売価格になかなか反映できない」点であると指摘し、アーティストへの還元率を上げていくこともエンターテイメント業界の課題であるとしました。

続いて、グローバルと日本の会場の違いについて議論が交わされました。北谷氏は、「海外では“Amphitheater”という野外劇場があり、屋根を必要としない形状から安いコストで建設可能で、北米やヨーロッパではライブ・エンターテイメントビジネスの大きな役割を担っています」とし、今後日本でメジャーになっていく可能性があるか福田氏に問いかけました。福田氏は、「ロサンゼルスが基本的に晴れているのに対し、日本は天候理由によるキャンセルのリスクがあります」としたうえで、5,000人規模のものであれば屋外劇場が一般的になる可能性があると語りました。また、福田氏は近年日本各地で次々とアリーナが建設されていることについて紹介し、音楽仕様の設備を取り入れることを訴えました。「全国の知事や市長から、新アリーナでのコンサート開催をご提案いただくことがありますが、アリーナ建設目的を伺うと、そのほとんどがスポーツだと回答されます」。ファンにとってより身近な場所でライブを開催するためにも、音響設備の検討など、建設前から音楽とスポーツ両方を視野に入れることの重要性を訴えました。

そして、福田氏は今後の日本のライブ・エンターテイメント市場の拡大において、大手外資系企業の参入による変化が重要になると明かしました。北米政権が共和党に変わったことにより、今後企業提携が積極的になることが見通されており、それが日本の音楽産業にとってもプラスに働くと示しました。「ライブネーションやEventim Liveといった外資の大手エンタテイメント企業がより日本で活発に活動することで、競争が起き、日本の音楽業界にとっての成長因子になるでしょう。海外のエンタテイメントビジネスから多くを取り入れることで、結果日本独自の良さも極まると考えます」。

 

テクノロジーがライブ・エンターテイメントの体験価値を変化させる

ディスカッションの最後に、テクノロジーの発展が音楽業界に与える影響について語られました。福田氏は、業界内でリアル体験とデジタルを組み合わせる取り組みが進んでいることを共有。「今までは、会場に巨大なセットを組み、機材を設置していましたが、最近はLEDのパネルを天井や壁面に設置して映像を映し出すなど、表現の幅が広がっています」。また、2023年にラスベガスでオープンした世界最大のLED球体型シアター“Sphere”について触れ、表現の拡張と大幅なコストカットの面で革新的な出来事であると、自身の考えを述べました。加えて、XR(クロスリアリティ)の発展により、今後没入感のあるライブが作られ、更なる進化を遂げると予想しました。

テクノロジーがもたらす恩恵を示す一方で、デジタル時代ならではの問題についても議論が交わされました。福田氏は、ライブ中の撮影とSNSでの拡散について、撮影だけに夢中になるのではなくリアルな音楽体験を楽しんでほしいと主張したうえで、「ライブの一部をSNS解禁にしたところ、Xのトレンド1位になったこともあります」とし、「SNSでの拡散とリアルな体験の組み合わせを、うまく設計する必要がある」と明かしました。また同氏は、近年問題になっているスマートチケットの違法2次流通について、会社として最優先で取り組んでいることを共有。「待っているファンのためにも、早急に合法的な2次流通サービスを作っていく必要があります」と迅速な対応を表明しました。

 

※本展は業界関係者のための商談展です。一般の方はご入場できません。

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