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新たなウィンドウ戦略と劇場公開戦略
公開日: 2017/03/30

VOD(動画配信ビジネス)の未来~アメリカの現状~(8)

2016年のAFM(American Film Market)において開催されたカンファレンスでは、”Future of Video On Demand”というテーマのもと、映像コンテンツのプロデューサーや配給会社、配信プラットフォームのキープレイヤーたちが、どこで利益が出ているのか、どのように稼いでいるのか。それぞれの立場と現状をもとに議論したものまとめた第八回(最終回)。

 

モデレーター:

ブルース・アイゼン Digital Advisors 代表)

 

パネリスト:
スティーブ・ニッカーソン Broad Green Pictures/ホーム・エンタテインメント部門代表 )
エリック・オペカ Cinedigm/デジタル・ネットワーク部門EVP )
へニー・パテル  AT&T Entertainment Group/ビデオ・マーケティング部門VP )
メイヤー・シュワルシュタイン ( Brainstorm Media代表 )

ウィンドウ戦略と興行の反発

ブルース(モデレーター):
プレミアムVODのようなウィンドウ戦略について、興行主からの反発や暗黙のプレッシャーのようなものはあるのでしょうか?

 

スティーヴ(Broad Green Pictures/ホーム・エンタテインメント部門代表):
もちろんです。興行主の中でウィンドウ戦略について進歩的な考え方の人は多くはありません。したがって、誰とどのように話をするかが重要です。それでも、そうしたあつれきのなかで、DirecTV北中南米地域の衛星放送サービスのように独占配信パターンが実行されていることは、驚くべきことだと思います。

なぜなら、超大作を含む多くの映画は公開第4~6週目までに興行収入の大部分を稼ぐにも関わらず、興行側は90日のウィンドウがない場合には、どんな状況でも反発するものなのですから。数年前に、『ハートロッカー』は48週間劇場公開されましたが、今それだけ長い間、映画館で上映できる映画はありません。それでも、いまだに90日のウィンドウを求められるのです。興行側との商談部屋に入り、「最初の週末には1500スクリーンで上映してほしいが、60日後にはTVOD(レンタル型動画配信)ウィンドウでリリースする」と伝えるのは辛い役目です。

 

ブルース(モデレーター):
では、Day and Dateリリース(劇場公開と同時にDVDや動画配信販売がなされるリリース形態)の場合はどうですか?

 

スティーヴ:
それは、まったく違うモデルなのです。Day and Dateリリースのモデルでは、配給会社が自主上映することもあります。興行側は、自分の取り分さえ稼げれば、後は気にしません。Day and Dateリリースは、全く違うタイプのコンテンツにおける、全く違うモデルなのです。

これまでと違うウィンドウ展開にむしろ適した映画のタイプは?

ブルース(モデレーター):
スティーブさんは先ほど、ウィンドウを崩壊したほうがいい映画がある、とおっしゃっていました。それは例えば、どのようなタイプの映画ですか?

 

スティーヴ:
はっきりタイプをお伝えすることはできませんが、私の各映画へのアプローチ方法についての考え方をお伝えします。実は、この考え方は、エンタテインメント業界に入る以前に、20年ほど電気製品業界で仕事をしていたときに生まれたものです。

いまやエンタテインメント・ビジネスは大衆市場ビジネスと考えられていますが、私がワーナーで働き始めた頃、映画は大衆市場向けの商品ではありませんでした。私自身、ワーナーを離れて、サミットで働き始めるまで気づかなかったことですが、「ちょっと待てよ。ボックスオフィスで1億ドルを稼ぐような映画だって、消費財の定義から言えば、ニッチな製品なのだ」と気づきました。 そう考えると、作品を一つ一つ見つめることは、とても重要なのです。

何よりも、映画作品そのものの性質、その作品の市場は何なのか、その作品に適したプラットフォームはどこなのかを知らなければなりません。それは、リアルな小売品であろうと、電子取引であろうと関係ないのです。

VODにおいて、「Google」よりも「Microsoft」で売れる作品がありますし、「iTunes」よりも「Google」で売れる作品もあるでしょう。それぞれの作品の市場環境を理解し、その市場に訴求するために最適なプラットフォームを見極めることは、私たちの責任なのです。その上で、それらのプラットフォームが最大限の成果を出せるよう、戦略を考えるべきなのです。

私たちは、すべての作品をできる限り幅広く配給・配信したいと思っていますが、作品やターゲット層の性質上、ほんの一握りのプラットフォームでヒットするような作品もあるのです。リアルな小売市場において、「オタク受けするBestBuy家電量販店)で家族向け」作品を推し、「家族受けするTarget(ディスカウント百貨店チェーン)でオタク向け」作品を推すというようなことはしません。VOD市場においても、同じことなのです。プラットフォームによって、特定の種類の顧客ニーズを満たすものがあるのです。そういう意味で、映画の規模の大小にかかわらず、アプローチ方法はまったく同じなのです。

劇場公開と同時配信の課題:
我々はが持つべきなのは、“卸”の視点ではなく、観客と直接接点を持つ“小売”の視点

ブルース(モデレーター):
メイヤーさんは、多くのインディペンデント・フィルムメイカーと取引されていますが、Day of DateリリースやVOD について、彼らの反応はどのようなものなのでしょうか? 賛成、それとも劇場配給を脅かすという理由で反対ですか? 直接、VODリリースされることについての反応や、劇場公開へのこだわりはどうでしょう? そのあたりをお聞きしたいです。

 

メイヤー(Brainstorm Media代表):
そこは互いの期待値の問題だと思います。私たちがフィルムメイカーと会い、最適な映画のリリース方法を決定する際には、まず、こちらの意見を伝えます。スティーヴさんがコメントしていたとおり、まずは、観客が誰なのか、誰に売ろうとしているのかを決めなくてはなりません。

私たちは、“卸”の視点ではなく、“小売”の視点を持たなければならないのです。その上で、その映画をリリースする最適かつ最も効率的な方法を考えるのです。その情報をフィルムメイカーと共有し、彼らが同意するかどうか確認します。 なかには、そうした計画にとても熱心なフィルムメイカーもいます。

劇場公開・VODリリースを同時にすると決めた場合、しっかりとした劇場公開を行い、しっかり宣伝し、しっかりVODリリースに取り組み、タレントをサポートする。それができれば、販売の要素だけでなく、マーケティング要素も加わり、映画がより多くのパブリシティを獲得し、認知度を高めることになるのですから、これほど素晴らしいことはないのです。 つまり、大切なのは始めに互いの期待値を確認してゴールをしっかり設定し、皆が同じ結果を目指すことなのです。

 VOD(動画配信ビジネス)の未来~アメリカの現状~ レポート

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