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第2章 メディア戦略・プロモーション施策事例「2:ネット”荒らし”を乗り越えた『ブラックパンサー』」
公開日: 2018/07/13

特集:スタジオトップマーケターによる基調ディスカッション 第2章(2)
massive2018

 

映画のマーケティングに携わる者は、いかにして確実に成功を収められる宣伝計画を立案するのでしょうか。そして、成功する配給戦略とはどのようなものなのでしょうか。”MASSIVE The Entertainment Marketing Summit”で行われた基調ディスカッション“Film Studio Keynote Conversation”では、各スタジオのマーケティングのトップが、具体的な作品の宣伝施策を例に貴重な経験の数々を披露しました。

 

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反響が多い作品では、その分ネガティブなコメントも聞こえてくるのはしかたのないもの。しかし、インターネットでは嘘の情報を流し、意図的に作品の評価を下げようとするものがいます。『ブラックパンサー』もその標的にさらされましたが、”荒らし”や”釣り”であることを暴き、大ヒットを収めました。ディズニーは一体どのように乗り越え、ヒットへと導いたのでしょうか。ディズニーのマーケティング プレジデント、リッキー・ストラウス氏がその真相を語ります。

 

※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2018年3月)時点の情報です。
※スピーカーの概要は、連載第1回「第1章 宣伝戦略の今 「1:ヒットの鍵を握る映画のイベント化」」をご覧ください。

 

 

 

メディアやファンの支援で“釣り”を回避

 

 モデレーター
インターネットには、“釣り”や“荒らし”と呼ばれる嫌がらせがあります。リッキー、『ブラックパンサー』ではそういった問題(※1)が発生して対応を余儀なくされましたよね。少数派の意見であるのは明らかでしたが、どのように対処されたのでしょうか?

 

※1 『ブラックパンサー』の全米公開時にTwitterを中心に広がった”荒らし”と“釣り”。同作を見に行った白人が、「この映画は白人の見るものではない」という理由でアフリカ系アメリカ人から襲撃を受けたという偽情報が出回った。

 リッキー・ストラウス(ウォルト・ディズニー・スタジオ)
ソーシャルリスニングに関して、我々が意識しておくべきことは、異質だと感じた場合、大抵その感覚は正しいということです。そして、異質なものが現れる時は、通常発生しないような形で否定的な意見が続出します。ディズニーではソーシャルリスニングの専門家らの手を借りて、ボットか釣りかを判断しています。

実際にはわずか数人のグループであるにも関わらず、FacebookやTwitterを駆使して一大勢力になろうとする者も少なくありません。『ブラックパンサー』のケースでは、メディアに助けられました。我々が反応する前に、皆さんのような方が「何かおかしい。これは無視すべきだ」と注意を促す記事を数多くアップしてくださったのです。

『ブラックパンサー』は、我々が全く予想できなかった現象が発生した珍しいケースでした。早い段階から何か特別なことを予感させるサインが出ており、積極的に参加してくれるコアなファンやアーリーアダプターが続出したのです。しかし、ここまで大きな反響のある作品が登場すると、声高にネガティブなコメントを出して流れをコントロールしようとする否定派も現れるのです。

このケースでは、ともかく作品が素晴らしかった。ブラックパンサーは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で初めて登場したキャラクターです。当時から非常に人気があり、ブラックパンサーことティ・チャラや超文明国ワカンダを描くスピンオフが期待されていました。そのため、2017年6月にNBAファイナルで初めて予告編を公開した時には、インターネット上で大きな話題になりました。ありがたいことに、協力を惜しまない多くの熱狂的なファンや、数多くのファンサイトが応援してくれたのです。

 

 

 

成功に欠かせない要素“パートナーシップ”

 

 リッキー・ストラウス(ウォルト・ディズニー・スタジオ)
パートナーシップなしでこの作品がここまでの成功を収めることはなかったでしょう。実際、宣伝パートナーの力は大きかったです。『ブラックパンサー』はスーパーボウルで映像を流しました。実際にはレクサスの広告だったのですが、車よりも映画のフッテージの方が目立っていましたね。最終的にレクサスは、『ブラックパンサー』現象の波に乗るべく出稿を増やました。そのほか、Twitterでは絵文字を作りましたし、TwitterやIMAX、Facebookと組んで生中継のQ&Aセッションもやりました。

繰り返しになりますが、パートナーシップは極めて重要です。ケンドリック・ラマーが本作のサウンドトラックに参加していますが、彼との関係はまさにパートナーシップと呼べるものですね。『ブラックパンサー』のライアン・クーグラー監督は、素晴らしい映画製作者であり彼自身もスターだと思うのですが、彼とケンドリックの仲は非常に友好的でした。

『ブラックパンサー』は、マーベルファンの中でもあまり注目されてこなかったコミュニティに刺さった作品です。率直に申し上げて、パートナーからの支援で手にした成功でした。各自がやりたいように進める方法は、もはやありえません。幸運なことに我々にはディズニーという素晴らしいプラットフォームがありましたが、そういったものがなくてもパートナーシップから得られるメリットは大きいものです。宣伝だけでなく、あらゆるものの成功に欠かせない要素だと思います。

 

【次回】
第3章 ヒットを科学する
1:デジタル時代を迎えた今、従来型リサーチは過去の遺物か?

 

スタジオトップマーケターによる基調ディスカッション