記事

配給会社のマーケティング施策の変化
公開日: 2019/08/02

特集「第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化」 Vol.1
第1章 デジタル化による顧客行動と映画マーケティングの変化
配給会社のマーケティング施策の変化

 

デジタルマーケティングの到来を「第2のデジタル革命」ととらえ、配給と興行に及ぼした影響を追っていく本特集。第1回は、デジタル化の波により、情報露出から鑑賞までの過程が大きく変化しているなか、どのようなマーケティング施策が必要とされているかに注目。大手配給会社のトップであるThe Walt Disney Company EMEA社のトニー・チェンバース氏と、Universal Pictures International社のダンカン・クラーク氏が現状を語りました。

 

※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。

 

《目次》

 

情報収集のベースはモバイルである

 

 モデレーター
いくつか基礎的なデータをご紹介して、ディスカッションを始めさせていただきます。 まず、映画上映に関する情報検索行動の80%はオンライン上で行われています。特に意外な事実ではありませんが、数字としてはシェアしておきたいと思います。また、昨年、アメリカにおけるオンラインのチケット販売は20%増加しました。ヨーロッパを始めとする我々が進出しているほとんどの市場でも同様です。そして、2019年の3月まではアメリカ、ヨーロッパ共に同様のトレンドが継続しています。

さらに、映画館に足を運んでくださる観客の70%以上が、モバイル端末で映画館のホームページにアクセスしています。情報収集のベースはモバイルです。デジタルの中でも、断然モバイルなのです。ヨーロッパでは、映画館に足を運んでくださるお客様の80%がモバイル端末で予告編を視聴しているのです。このことはつまり、予告編は通常横長で作られますが、スマートフォンの向きを変えずにみられる縦長の動画であるべきだということなのです。

 

 

鑑賞頻度アップという義務と責任

 

 モデレーター
デジタルプラットフォームにおける情報収集プロセスについて、トニーに口火を切っていただこうと思います。ここ数年間で、最初の情報露出から鑑賞までの過程が大きく変容していることをどうお考えになりますか?

 

 トニー・チェンバース(The Walt Disney Company EMEA社)
ビジネスという視点では、2つの重要なポイントを押さえた施策の実行が必要になってきていると思います。押さえるべき重要なポイントの1つ目は鑑賞頻度のアップです。これは市場シェアを拡大するよりもずっと容易なのではないでしょうか。配給会社にも興行会社にもこれを達成する義務や責任があります。

競争相手が無数にある現状を鑑みれば、配給会社は質の高いコンテンツを製作し、消費者が映画館まで足を運ぶ気を起こす施策を実施しなければなりません。そして、予告動画やその他のマーケティング施策が展開された瞬間からチケットを購入してもらうコンバージョンまでは、興行会社との共同作業になります。

消費者が無事に映画館に足を運んでくれたら、次にカギを握るのはフードやドリンクといったコンセッションです。また、音響や座席といった設備も重要です。ここで興行会社が何を提供するかで、鑑賞者のリピート状況が変わってきます。デジタルプラットフォームにおける情報収集は、リピートを醸成する要素の一部ではありますが、メインではありません。

鑑賞頻度のアップの次に大切なのは、万能策など存在しないと理解し、その前提で施策を考えることです。すべての興行会社、スタジオ、市場には異なる特徴があります。消費者の好みはますます多岐にわたってきています。鑑賞する作品や方法は、いくらでもあるのです。来館頻度のアップが狙いであれば、そこに向けて宣伝活動を設計しなければなりません。そこにこそ、デジタルが大きく関与できるのだと思います。

 

 

メディア予算の40%占めるようになったデジタル

 

 モデレーター
モバイルの話が出ましたが、映画館の醍醐味である巨大スクリーンでの鑑賞体験を小さなデバイス上でプロモーションするのは難問です。先ほど私の方から、予告動画をモバイル端末仕様にする例をご紹介させていただきました。ダンカン、顧客のメディア行動の変化を踏まえて配給会社の施策はどのように変わったのでしょうか。

 

 ダンカン・クラーク(Universal Pictures International社)
革命は確かにありました。6~7年前には、トニーが話したように、我々のメディア予算や業務の目的は自社作品に対する認知、関心、そして他社でなく自社作品を観たいと思う意欲を掻き立てることでした。そして、当時のメディアミックスにデジタル分野はほとんどありませんでした。当時の予算の5~6%程度だったと思います。

それが今では40%を占め、作品によっては60%にも上ります。過去2年間を振り返ると、市場によってはデジタルマーケティングのみで劇場公開したケースもあります。テレビでマス広告を打つ代わりに、メッセージをパーソナライズ化し、一本釣り的にコミュニケーションすることが可能になったのです。ただし、現段階ではまだ両者を組み合わせて利用することが肝要だと言えるでしょう。

ただし、視聴端末がスマートフォンであってもiPadであっても、3秒でスキップされる可能性があるのは周知のとおりです。実際のところ、我々はお客様の視聴環境を把握しきってはいません。まだ改善の余地は多分に残されており、だからこそ今でもテレビは映画マーケティングの中で重要な位置を占めているのです。

 

 

第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化