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データシェアがもたらす新たな可能性
公開日: 2019/08/23

特集「第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化」 Vol.3
第2章 データシェア
データシェアがもたらす新たな可能性

 

デジタルマーケティングに関する映画業界の現状と未来を、配給会社と興行会社双方の視点で切り込んでいく本特集。第3回は、データを扱う際に避けては通れない“データシェア”をトピックにディスカッションが繰り広げられました。配給会社と興行会社はそれぞれ、どのようなデータを扱い、どのようにデータを共有しているのでしょうか。各社によるデータシェアの考え方に注目です。

 

※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。

 

《目次》

 

重要なのは、はじめてみること

 

 モデレーター
デジタルマーケティングに関する次のトピックに話を移しましょう。この種のディスカッションでは常に取り上げられる、“データシェア”です。このテーマの3つの側面について、ディスカッションをお願いしたいと思います。

1つ目が、このパネルにはふさわしいポイントだと思うのですが、スタジオと興行会社との間でデータシェアは行われているのかという点。2つ目が、第三者のチケット販売会社が介在している場合のデータシェアについて。そして3つ目に、Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftなどの巨大企業は、ますます映画産業の動向に注目しているようですが、そういった企業間とのデータシェアについてどう考えているかという点です。

 

 トニー・チェンバース(The Walt Disney Company EMEA社)
私がお話しできるのは、配給会社と興行会社間のデータシェアになります。

この2、3年で状況は大きく改善されました。みなさんご存じのように、コンテンツやインサイトのないデータは、単なる数字です。

幸運なことに我々は興行会社と良好なパートナー関係を築いてきました。配給会社として我々は巨額の費用をコンテンツやマーケティングに投じていますからコスト等が問題ではありません。重要なのは劇場鑑賞者データを持っているのは、我々ではなく興行会社だということでしょうか。

とはいえ、我々が提供できるものは、マーケティング予算だけではありません。どの作品が、いつ、どのプラットフォームで視聴されているかのインサイトもあります。互いに情報を提供し合っているのです。ほかの配給会社の状況は分かりませんが、我々は、当社のファーストパーティデータにアクセスでき、その提供も可能です。

私はこういった活動について話をするとき、バスケットボールの例えを使います。ボールをバウンドさせればさせるほど高く上がるのですから、バウンドさせ続ける必要があります。そして、ともかく一度始めてみなければならないのです。

つまり一旦、劇場鑑賞者と対話を始めて、醸成していけば、別作品が公開された時にもその作品を観てもらえるように再度ターゲットできるのです。それがディズニー作品である必要はありません。『アリー/スター誕生』でも、『ボヘミアン・ラプソディ』でも、『メリー・ポピンズ リターンズ』でも構わないのです。重要なのは、映画館での鑑賞頻度を増やすこと。それが肝心なのです。データは出し惜しみせず、インサイトと共にシェアすべきなのです。

 

 

 

シェアするのは“データ”ではなく、“顧客インサイト”

 

 モデレーター
明確なインサイトを提供するという点については、ジェーン、あなたはいくつか事例をご存じですね。オーストラリアはオンラインのチケット販売に関しては先進国ですから、利用可能なデータのレベルも非常に高いのではないでしょうか。スタジオとの協力で御社のデータをマーケティングで活用した、最近の事例をご紹介いただけますか?

 

 ジェーン・ヘイステイングス(Event Hospitality & Entertainment社)
最も重要なポイントは、我々がシェアするのは“データ”ではなく、“顧客インサイト”だということです。

 

 モデレーター
その違いはなんでしょうか。

 

 ジェーン・ヘイステイングス(Event Hospitality & Entertainment社)
我々はデータを提供する際、「さあどうぞ、ターゲティングに使ってください」とはいいません。そこが違いでしょうか。

例えば、作品認知の段階で、スタジオがトラッキング対象としている消費者に関する調査を行います。つまり、データベースで購入前行動やウェブサイトの訪問行動をチェックし、作品情報を得る場所を実際に訪れた顧客が、スタジオの設定するターゲットと合致しているかを確認するのです。そして、スタジオに対して、「13~17歳の層は現在展開中の宣伝活動に反応していないようです。改善策を立てましょう」と伝えて対話を始めていきます。

対話の次のステップは、適切なオーディエンスの設定です。我々のデータベースは、チケット販売の約70%を捕捉しています。これを利用することで、例えばある作品には50万人ほどの潜在的オーディエンスがいることが分かります。スタジオと協働して行うのは、その層に当該作品を鑑賞する機会を提供し、実際に鑑賞していただくことです。トラッキングや評価は、我々の方で実施します。スタジオは、我々が提示したオーディエンスを利用して、SNSでキャンペーンを行うこともあります。

このように、我々は宣伝活動をサポートしますが、データそのものはシェアしません。もちろん、結果はシェアします。この手法のメリットは、配給会社の顧客獲得単価の削減につながることです。そして、宣伝の成否は我々のチケット売上に直結しますから、ウィンウィンの結果になるのです。

 

 

第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化

 

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