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古くから実在する映画館サブスクリプションモデル、その可能性
公開日: 2019/10/11

特集「第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化」 Vol.6
第4章 映画館のサブスクリプションモデル
古くから実在する
映画館サブスクリプションモデル、
その可能性

 

SVOD(定額制動画配信サービス)の台頭により、俄に脚光を浴びているのが、興行会社による映画館のサブスクリプションモデルです。実はヨーロッパでは20年前から、メキシコでは10年前から運用されていますが、その有用性には地域差があります。特集第6回では同モデルの導入障壁やメリット、デメリットに加え、その対抗馬としてのダイナミックプライシングについても触れました。グローバル展開する興行会社のトップが語るサブスクリプションモデルの今に注目です。

 

※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。

 

《目次》

 

サブスクリプションモデルの導入障壁

 

 モデレーター
SVOD(定額制動画配信サービス)の台頭、そしてSVODが引き起こしたディスラプション(市場の創造的破壊)からは、もうひとつの課題が浮かび上がってきます。それは、ビジネスモデルの変容です。

ヨーロッパでは映画館のサブスクリプションモデルが過去20年間にわたって利用されてきました。我々はともすると、米劇場チェーンAMC Theatres のサブスクリプション会員が80万人に達したなど、直近の数字に目を奪われがちです。もちろん、短期間でこの数字を達成したのは素晴らしいことですが、フランスやイギリスでは20年前に、メキシコでは10年前にサブスクリプションモデルが誕生していた点を忘れてはいけません。こうしたなか、市場によってサブスクリプションモデルが機能する場合と機能しない場合があるのは、なぜでしょうか?

トニー(・チェンバース The Walt Disney Company EMEA社)は、あらゆる市場に適合するモデルはないとおっしゃいました。サブスクリプションモデルの普及においても、それは明らかです。アレハンドロ、このビジネスモデルがメキシコ市場にどのような影響を与えたのか、そしてあなたのグループ企業が進出している他の市場に導入しないのはなぜかをお聞かせいただけますか?

 

 アレハンドロ・ラミレス・マガーニャ(Cinépolis社)
我々がサブスクリプションモデルを導入したのは、メキシコシティと10年以上前から本社を置いているモレリアのみです。この2都市に絞ってテスト導入しました。 最初の数年で10万人に加入いただきましたが、最終的に全国展開はしない結論に至りました。

率直に申し上げて、サブスクリプションモデルは特効薬ではありません。思わぬ大金が転がっているわけではないのです。価格設定を間違えれば、サブスクリプションモデルはあっという間にその価値を失います。肝心なのは価格設定を正確に把握することです。サブスクリプションモデルによって来館頻度をアップさせながら、定価でも劇場に足を運んでくださる鑑賞者層を失わないようにしなければなりません。定価で購入するお客様と来館頻度の高いお客様を獲得し、収益源の変化ではなく追加につなげることが重要です。

過去6年間、我々はサブスクリプションモデルをプロモーションしてこなかったように思います。プロモーションを止めたため、その規模は縮小しました。現在我々は、リニューアルして全国展開するか、このまま終了させるかを検討中です。先ほども申し上げたように、価格設定が非常に難しいのです。

言うまでもなく、同じ国の中でも地域によって消費性向や需要の弾力性が異なるため、非常に複雑になります。うまく設計できれば付加価値を生み出せると思いますが、それでもなお継続的に結果を精査し、お客様だけが得をしている状態にならないよう注意しなければなりません。

 

 

 

サブスクリプションモデルのメリット、デメリット

 

 モデレーター
ティム、あなたは規模の大きなロイヤリティプログラムで成功した経験をお持ちですが、なぜサブスクリプションモデルの導入を進めないのですか? また、ほかの映画興行会社、またはアメリカを始めとする他市場が、このモデルに注目しているのはなぜだと思われますか?

 

 ティム・リチャーズ(Vue Entertainment社)
Cinépolis社とVue Entertainment社はこの件に関して似通った見解を持っており、アレハンドロ(・ラミレス・マガーニャCinépolis社)とは同意見です。サブスクリプションモデルのメリットはお客様の情報が手に入ること。そしてデメリットはディスカウントが必須であることです。我々はまずお客様の情報を得ることを優先します。しかし、サブスクリプション契約は身動きしづらいものだと分かりました。我々はもう少し短期間でサービスを提供したいと考えています。12カ月もの期間ディスカウントを提供し続けることは避けたいのです。

必要な場合には、もっと迅速に展開します。我々はオランダでサブスクリプションモデルのサービスを提供していますが、成功しています。オランダの市場は他市場に比べ、小さくまとまっているのです。 我々はともかくお客様にフォーカスし、お客様を知ろうと努めましたが、他市場でのテストは、あまりうまくいきませんでした。

そのほか、我々は2007年以来、価格設定に関して投資を行い、ダイナミックプライシング(変動料金制)を開発しました。専用の部門を設立して、ヨーロッパ各地で常にプライスポイントのテストを行っています。

 

 

 

ダイナミックプライシングが必要とされる背景

 

 モデレーター
ダイナミックプライシングの話が出ましたが、ジェーン、あなたはダイナミックプライシングに関する経験があると伺っています。そこで、同じ質問をさせていただきます。ダイナミックプライシングをはじめとする革新的な戦略や製品を扱ってきたのにも関わらず、サブスクリプションモデルを導入しなかったのはなぜですか?

 

 ジェーン・ヘイステイングス(Event Hospitality & Entertainment社)
すべてに適用できるモデルはないという信念が理由と言って差し支えないと思います。作品も座席も地域も違いますし、お客様のタイプも異なっています。汎用モデルや統一価格の入り込む余地はないのです。

我々は、できる限り多くのお客様に映画館に足を運んでいただき、来場者の情報を可能な限りデータベースに取り込むことを信念としています。なぜならその方が有用だからです。そうすれば、1対1の関係を築いて来場頻度と劇場の価値を向上できるようになります。頻度と価値は同じくらい重要なものです。

我々はダイナミックプライシングをデータに基づいて運用しています。作品のタイプ、日にち、市場セグメント、地域を考慮しますし、体験のタイプや天候、前売り券の売れ行きなどその他要素も加味します。多種多様な要素を駆使しているのです。すべてに適用できるものがない以上、この方法は非常に有用だと考えています。

 

 

第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化

 

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