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「映画館でのプレミアム体験」は顧客に理解されているか?
公開日: 2019/11/01

特集「第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化」 Vol.8
第5章 プレミアムマーケティング
「映画館でのプレミアム体験」は
顧客に理解されているか?

 

近年映画館では、PLF(プレミアム・ラージ・フォーマット)やイマーシブ・サウンド(立体音響)、4D上映など、様々なプレミアム鑑賞体験を提供しています。しかし、消費者はこれらの違いを明確に理解しているのでしょうか。また、興行会社は適切なクラス分けを実施できているのでしょうか。特集第8回はプレミアム鑑賞体験に焦点を絞り、航空業界が実施している座席のクラス分けを例に、興行会社トップが実情を明かしました。

 

※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。

 

《目次》

 

航空業界に学ぶプレミアム体験のクラス分け

 

 モデレーター
ヨーロッパを始めとした世界中の興行会社が、過去数年にわたってディスカウント制度への対抗策として進めてきたのが、プレミアムな鑑賞体験への投資です。関連するファクトや数字をいくつかご紹介しましょう。

数カ月前のヨーロッパの数字ですが、イマーシブ・サウンド(立体音響)を備える劇場は5,900、プレミアム・ラージ・フォーマットを導入している劇場は3,375以上、4D上映可能な劇場は1,700になるそうです。

そこで質問です。我々はこれらプレミアム鑑賞体験の違いを消費者に伝えきれているのでしょうか? 航空業界を例に考えてみましょう。航空会社は、あらゆる座席クラスにおいて他社よりも上質なサービスを提供するべく競い合っています。しかし、ファースト、ビジネス、プレミアム、エコノミーの4クラスを提供するという枠組みは共通しています。映画業界でも同様に複数のクラスがありますが、業界共通のクラス分けはありません。航空業界を熟知した方がパネリストの中にいらっしゃれば、興味深いお話を伺えるのですが……。

そうでした! ジェーン、あなたは航空業界でも活躍されていましたね。ぜひこの例えについて、お話しください。どのような経緯で航空業界は現在のシンプルなクラス分けに行きついたのでしょうか? 映画業界で同じことをするのが難しいのはなぜなのでしょうか?

 

 ジェーン・ヘイステイングス(Event Hospitality & Entertainment社)
現在提供されている鑑賞体験が複雑だとは思っていません。ですから、最初の質問に戻って答えさせていただきたいと思います。

多様な鑑賞体験があることは好意的に受け止められていると考えています。我々は「あなたの映画館、あなたの流儀」というスローガンを掲げています。4Dで鑑賞したい方もいれば、ゴールドクラス席で食事を楽しんだり、リクライニングチェアを利用したり、巨大スクリーンで映画を鑑賞するような「夜のデート」を選択する方もいます。ですから、この業界は非常に巧みにクラスを設定していったのだと思います。ゴールドクラスでの素晴らしい食事、巨大スクリーンでの鑑賞体験、フルモーションの4D体験、そしてスタンダードの鑑賞体験。それらはまさにファースト、ビジネス、エコノミーの各クラスに相当するのではないでしょうか。

最近私たちは、ファースト、ビジネス、エコノミー制度を導入した映画館の展開を開始しました。座席の位置とリクライニングチェアであるかどうかでチケット価格が変わります。これは既存施設の手法を変えた運営だと見ています。

私個人としては、業界側もお客様側もこの件に関しては混乱していないと思っています。むしろ、様々な選択肢があることに楽しさを感じていただいているのではないでしょうか。

 

 

 

多彩な席の組み合わせで収益性を高める

 

 モデレーター
ティム、Vue Entertainment社が展開している市場ではどのような状況かお聞かせください。ジェーン同様、我々の価値提案については楽観的な見方をされているのでしょうか。映画館に足を運んでくださるお客様は、PLF(プレミアム・ラージ・フォーマット)が意味するところや、様々なプレミアム鑑賞体験の違いを理解されているのでしょうか。

 

 ティム・リチャーズ(Vue Entertainment社)
私もジェーンと同意見で、ただしく理解されていると思います。10 年前を思い起こしてみると、当時は新しい製品やビジネス手法のテストに半年ほどを費やしていました。しかし、大型のレザーシートをVIP席としてテスト導入し始めた時には、複数の劇場においてすぐに予約が入ることが確認できたため、2カ月でテストを終了しました。現在、リクライニングチェアを導入しているのですが、これは口コミの材料になることが分かりました。

座り心地のいいレザーのリクライニングチェアで映画を鑑賞すると、友人や家族にその鑑賞体験を話したくなるのです。この席は期待をはるかに上回る稼働率となっています。ただし難点は、広いスペースを必要とする設備のため、すべての施設には導入できないことです。

先程ジェーンが話したことを、我々も経験したのだと思います。稼働率の高い施設には、スタンダード席やVIP席、リクライニング席など、価格の異なる様々な席の組み合わせを提供して収益性を高めるのが有効だと思います。大切なのは、作品や鑑賞時期、場所に応じた適切な価格を設定することです。

 

 

第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化