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「プレミアムマーケティング」の可能性
公開日: 2019/11/08

特集「第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化」 Vol.9
第5章 プレミアムマーケティング
「プレミアムマーケティング」の可能性

 

特集第9回は、配給会社、興行会社の両面から「プレミアムマーケティング」の可能性に迫ります。Universal Pictures International社のダンカン・クラーク氏は、映画館で味わえるプレミアムな鑑賞体験こそがテレビとの明らかな違いであると力説。一方、Cinépolis社のアレハンドロ・ラミレス・マガーニャ氏は、成熟した市場と新興市場ではプレミアムマーケティングが異なることを明かしてくれました。プレミアム鑑賞体験が生む価値とは一体なんでしょうか。

 

※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。

 

《目次》

 

素晴らしい鑑賞体験こそがテレビとの違い

 

 ダンカン・クラーク(Universal Pictures International社)
映画館での鑑賞体験を左右する要素について考えてみましょう。この歳ですから、かつて映画館がどのような状況だったかよく知っています。それを踏まえると現在は大変素晴らしい環境ですよね。先週ロンドンで、我々が手掛けた『イエスタデイ』の最終版上映があったのですが、フォーマットや音響、鮮明さなど、すべてが素晴らしいものでした。iPhone やiPadに夢中の息子を外出させるのは一苦労でしたが、充分その甲斐がありました。

息子の目には驚嘆の色が浮かんでいました。彼は鑑賞体験にどれほど素晴らしい価値があるのかを再発見したのです。我々が現在、そしてこれからもやっていくのは、可能な限り技術を進歩させることです。それを既存の環境に適用するからこそ、映画館での鑑賞体験が素晴らしいものであり続けるのだと思っています。

大げさに言えば、そこがテレビとの明らかな違いです。オーディエンスはどこにでもいますが、我々のオーディエンスがなくなることはありません。現在提供している差別化ポイントを今後も改善し続けていければ、我々にとって非常に強力な武器となるでしょう。

 

 

 

 

市場ごとに異なるプレミアムマーケティング

 

 モデレーター
ありがとうございます。プレミアムな鑑賞体験と言えば、Cinépolis社はアメリカを始めとする多くの市場でトップクラスの鑑賞体験を提供することで知られています。

ベーシックな鑑賞体験が“安物”だと思われてはなりません。このことを踏まえて、非常にプレミアム性の高い鑑賞体験とエコノミークラス的鑑賞体験を組み合わせることを、どのように考えていますか。このように幅を持たせた提案は、全体的なマーケティング戦略にどのような影響を与えるのでしょうか。

 

 アレハンドロ・ラミレス・マガーニャ(Cinépolis社)
1999年にメキシコで最初のVIP施設をオープンし、それから20年程経過しました。現在では同種の施設を11カ国で展開しています。ラテンアメリカの映画館はシネコン中心ですが、大体1つの施設でVIPスクリーンを4、従来型スクリーンを10導入しています。お客様毎に価格性向は異なり、常にVIPを選択する方もいれば、従来型しか選択されない方もいらっしゃいます。その意味では、航空業界の例えは的を射ていると思います。まさにファーストとエコノミーです。

アメリカのような成熟した市場に関しては、幅を持たせて提案するという前提に賛成です。成熟市場では大きな成長が見込めないため、うまくセグメンテーションしてお客様のアップグレードを促す必要があります。そのため、プレミアムな鑑賞体験を提供する方向への変化が起こっているのです。一方で、まだ成長余地のある新興市場での展開においては、エコノミークラスのサービスを提供するに留まっています。

 

クラス幅を持たせることの難しさ

 

 アレハンドロ・ラミレス・マガーニャ(Cinépolis社)
我々はプレミアム鑑賞体験において成長を遂げています。あらゆるクラスのサービスを提供できるのはいいことだと思います。しかし、例えばこれから我々が進出しようとしている中東のような市場には、エコノミー、プレミアム、ファーストの各クラスに相当する席があるのですが、現在、その区分すべてを提供することにメリットがあるか否かを検討中です。1つの映画館にすべての区分を設定するのは若干分かりにくいのではないかと思っているからです。

アメリカでも少し悩ましいケースが出てきています。例えば、我々がフルフラットのリクライニングチェアと座席まで飲食物をお持ちするウェイターサービスのついたVIPパックを導入するとします。非常に労働集約型のサービスです。一方、競合他社は、フルフラットのリクライニングチェアだけでウェイターサービスなしのパックを違う価格で導入したとします。すると我々も同様のサービスを導入することになります。ファーストクラス相当のサービスに特化していましたが、ビジネスクラスも提供するようになるのです。

いずれにしても、アメリカではビジネスクラスというか、フルフラットのリクライニングチェアだけでウェイターサービスなしのパックが、最も成長ポテンシャルが大きいようです。

 

 

第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化

 

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