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興行会社のマーケティング施策
公開日: 2019/08/09

特集「第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化」 Vol.2
第1章 デジタル化による顧客行動と映画マーケティングの変化
興行会社のマーケティング施策

 

デジタル化の波を配給会社、興行会社双方の視点で追っていく本特集。第2回は興行会社の施策に着目しました。劇場来訪者に対して興行会社と配給会社が果たす役割や、ロイヤリティプログラムの進化、モバイル端末の利用状況などを、具体的な数値とともに明かしてくれる世界大手の興行会社トップの言葉に注目です。

 

※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。

 

《目次》

 

お客様と1対1の関係を構築

 

 モデレーター
ジェーン、劇場来訪者に対する初動アプローチ時に、興行会社と配給会社が果たす役割についてお話した際、あなたはかなりシンプルな見解を示されました。

 

 ジェーン・ヘイステイングス(Event Hospitality & Entertainment社)
トニー(・チェンバース The Walt Disney Company EMEA社)の指摘とほぼ同じです。配給会社の役割は、認知と熱狂的な関心を喚起することであり、継続的に新規顧客を発掘することです。

一方、興行会社の役割は、どのような体験が好まれ、どの程度の価格が受容されるかを把握し、映画館に足を運んでもらえるような環境を提供することです。そのためには、データを収集、利用してお客様と1対1の関係を構築することが重要です。事前認知のトラッキングや映画のウォッチリスト、つまり次に観たいもののリストなどを分析し、いかにしてお客様をアップグレードさせられるかを検討します。それを1対1の関係を通して提案するのです。我々のデータベースはオーストラリアのチケット販売の約70%を把握しており、非常に役立っています。

 

 

ロイヤリティプログラムの可能性

 

 モデレーター
劇場来訪者それぞれに対して、訴求方法をカスタマイズするという点については、世界最大級の劇場ネットワークを持つ、アレハンドロとティムに伺いましょう。こういったパーソナライズマーケティングは既に現実のものとなっているのか、それとも将来的に実施したいと考えるビジョンなのか。ご意見をお聞かせいただけますか、アレハンドロ?

 

 アレハンドロ・ラミレス・マガーニャ(Cinépolis社)
現在は移行期であると考えています。我々のロイヤリティプログラムは、今でも5年~10年前からあった技術を利用しています。むろん、それ自体も進化はしていますが、新たに登場した分析ツールやAIを利用すれば、ロイヤリティプログラムを本当の意味で進化させられるのではないかと思います。

ロイヤリティプログラムを初めて導入した20年前には、来館のたびに穴を開ける方式のカードを使っていたように思います。来館5回でポップコーンを、10回でチケット、15回で飲み物セットを進呈していました。すべて実店舗で展開してたのですが、その方式も時とともに進化していきました。

現在、我々には440万のロイヤルカスタマーがおり、全体売上の42%を占めています。この方たちが我々の主要顧客です。従来は、その顧客を5つか6つの大きなクラスターに分類していました。最も熱心なお客様のグループから、興味の薄いグループにまで分類したのです。当時、分類できるカテゴリー数は最大で6つでした。

現在はそんな上限はありません。顧客はそれぞれが独自のクラスターです。つまり、コミュニケーションしたい内容をしっかり伝えられる一人のクラスターが無数にあるということです。顧客がどのジャンルを好み、一人で鑑賞するのか家族で鑑賞するのか、毎回何枚のチケットを購入し、コンセッションで何を買うのか。そのすべてが分かっています。ですから、現在は移行期ですが、新しい分析ツールを利用すれば今後の可能性は無限大だと思っています。

 

 

 

チケット予約の約75%はモバイル端末

 

 モデレーター
無限の可能性がある時、常に問題となるのはどこまでやるかです。5年前には考えられなかった、もしくは通常は考えなかった層にリーチするために、現在実施している施策を具体的にお話しいただけますか? それとも、現在でも同じ手法をとっているからこそ、無限の新しい可能性があると考えられるのでしょうか?

 

 ティム・リチャーズ(Vue Entertainment社)
ジェーン(・ヘイステイングス Event Hospitality & Entertainment社)やトニー(・チェンバース The Walt Disney Company EMEA社)の意見に同感です。我々は顧客における情報収集から鑑賞までの過程に目を向けるべきです。そして、そこには2つの見方があると思います。1つは極めてオーガニックに作品自体をプロモーションすること、もう1つは映画館に足を運んで鑑賞するよう消費者に働きかけることです。前者に関しては、パートナー企業と共同で実施します。

5年~10年ほど前の印刷媒体の時代と、ほとんど印刷媒体を使わずデジタルでコンバージョンを完了する現在では、すべてが大きく変容してきています。 我々が事業展開している市場に共通しているのが、モバイル端末の成長と普及率の高さです。我々のチケット予約の約75%はモバイル端末からのものです。また、チケットを予約購入する顧客の割合は年平均約40% に留まっていますが、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では98%にも上りました。

デジタルの進化で、我々の業務は大きく変わりましたが、多くの市場ではブロードバンドがなかなか普及しませんでした。しかし、モバイル接続が飛躍的発展を遂げた結果、消費者はモバイル端末を手にPCから離れました。そして、それが我々にとってこの上なく大きなチャンスとなったのです。アレハンドロも話していましたが、我々はデータを収集、利用して、お客様を理解するよう努めています。既にお客様がどの映画を、いつパートナーや家族と一緒に鑑賞するのかを把握しているのです。我々はメールやFacebookでも情報を発信していますが、ともかくお客様が次の展開を楽しみにする気持ちになるよう心がけています。

イギリスの現状を鑑みると、今後の方向性によっては誰もが影響を受けるデータ関連の問題が発生するように思われます。しかし、現段階でも既にどのデータをどこで保管するかという問題は表面化しています。

 

 

第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化