記事

映画館サブスクリプションモデルによる価値創造に向けた懸念
公開日: 2019/10/18

特集「第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化」 Vol.7
第4章 映画館のサブスクリプションモデル
映画館サブスクリプションモデルによる
価値創造に向けた懸念

 

近年、関心を集めている映画館のサブスクリプションモデルですが、その制度設計は複雑さを極め、試行錯誤を重ねている状況です。興行会社側からみた同モデルの導入障壁等に触れた前回に続き、第7回は在欧ハリウッドメジャーのトップが、配給会社の視点から同モデルについて語ります。来館頻度向上か、それとも作品価値の維持か。配給会社が考えるディスカウント制度のあり方にも注目です。

 

※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。

 

《目次》

 

サブスクリプションモデルが直面している問題

 

 モデレーター
サブスクリプションモデルに加入していれば、気に入るかどうか分からない映画の鑑賞につながることが期待できます。しかし一方で、世界の映画市場に目を転じると、驚くべき興行収入を達成してはいるものの、少数の作品に観客が集中する傾向が強まっていることが懸念されます。

たとえば、ある週末に映画館に足を運んだお客様の90%が『アベンジャーズ/エンドゲーム』を鑑賞しました。この点は、サブスクリプションモデルの有用性に疑問を感じるところです。聞いたことのある作品を観るだけでなく、よく知らない作品にサプライズを求めるのも映画鑑賞の醍醐味です。そう思わせる施策はないものでしょうか?

 

 ジェーン・ヘイステイングス(Event Hospitality & Entertainment社)
データを取得し、価値とプレミアム性を高めれば可能だと思います。例えば、全セグメントデータを色分けし、密度の高い層や需要のある層、真空地帯を特定し、キャンペーンを設計します。こうすることで、何に付加価値を付けて提供すべきかが分かるのです。

お客様が自身で想定していなかった作品を鑑賞してもらうための施策に、サブスクリプションモデルは必須ではありません。データベースにはお客様の情報があり、そこからアクション映画をご覧になったことがないことは分かります。それが確認できれば、そういった方に向けた施策を提示するだけです。

サブスクリプションモデルがなくても、これは可能だと我々は考えています。ただし、例えばティーンエイジャーのようにサブスクリプションモデルが向いている層もあります。実際、彼らの利用率は増加しているはずです。

 

 

 

配給会社が危惧するディスカウント制度

 

 モデレーター
サブスクリプションモデルは、しばしば配給会社と興行会社の間でも議論になっています。ダンカン、あなたの意見をうかがえますか?

 

 ダンカン・クラーク(Universal Pictures International社)
端的に言うと、我々はディスカウント制度を好みません。2人で1人分の料金という制度もどうかと思います。しかし、お客様の来館頻度を増やすことには賛成です。我々は、過去何年にもわたって様々な制度を導入し、映画館に足を運んでいただくよう努めてきました。例えばイタリアでは、永遠の課題となっている夏季の動員数アップに向けた施策を現在も展開中です。

これまで、全興行会社と一致団結して、6月、7月、8月こそ映画館で映画を鑑賞するのに適した時期だという考えを普及させようと試みてきました。しかし、チケットの価格については協議したことすらありません。それは興行会社の権限です。とは言え、我々が製作した作品の価値を守ることには留意しています。

我々は何億ドルもの資金を投じて映画を製作しています。ですから、各市場で価値に見合った価格で公開していただかなければなりません。価値や独自性を損なうような公開の仕方は望みません。ほかのスタジオも同様の考えをお持ちの事と思います。協力して映画館に足を運んでくださるお客様を増やしていくのは当然ですが、作品の価値を維持するための一線は守らなければなりません。

 

 モデレーター
トニー、ディスカウントを提案する際に注意すべき点とはなんでしょうか。

 

 トニー・チェンバース(The Walt Disney Company EMEA社)
結局はアレハンドロのおっしゃった通り、特効薬ではないということに尽きると思います。配給会社と興行会社がお客様に提案できるサービスは1つだけではありません。重要なのは、消費者が何に価値を感じるかです。

現在、消費者には多種多様なサービスが提示されています。業界として避けたいのは、映画館での鑑賞体験の価値を低下させることです。そうでなくても課題は多いのですから、価値の低下につながる行為は我々自身のためになりません。バランスが難しいところです。すべてに適用できるモデルはありませんし、サブスクリプションモデルは決して特効薬ではありません。

 

 

第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化

 

レポート・データ解説