「もはやコロナ後ではない」映画配給と興行、ローカルとハリウッド、対立を超えて~エクゼクティブ・ラウンドテーブル(3/3)
公開日: 2025/01/31
タイのバンコクで開催された「シネアジア 2024」(開催期間:2024年12月9日~12日)より、アジア・太平洋地域の映画配給・興行のキーパーソンらが登壇したパネルディスカッション「エクゼクティブ・ラウンドテーブル」を3回に分けてレポート。3回目では、コロナ禍から5年が経とうする今、配給・興行、ローカル・ハリウッドの壁を超え、業界全体としてポジティブな成功事例を発信する必要性について語られました。
※本記事で触れられている内容は2024年12月時点の情報です。
ランス・パウ(Rance Pow)
アーティザン・ゲートウェイ(Artisan Gateway):Founder & CEO
パネリスト
トニー・チェンバース(Tony Chambers)
ウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company):Head of Global Theatrical Distribution
アン=エリザベス・クロッティ(Ann-Elizabeth Crotty)
ソニー ピクチャーズ リリーシング(Sony Pictures Releasing):EVP Global Customer Experience, Exhibitor Partnerships & Retail Marketing
キャメロン・ミッチェル(Cameron Mitchell)
Cinema Association Australasia [CAA]:Executive Director
※オーストラリア、ニュージーランドの映画興行団体
スリョ・スヘルマン(Suryo Suherman)
Cinema XXI :President Director
※インドネシアの大手映画チェーン
ローカル映画か、ハリウッド映画か
配給と興行の連携が語られる一方で、ローカル映画とハリウッド映画の共存も重要なテーマとして取り上げられました。
ローカル映画のシェアがインドネシアでも増加
Cinema XXIのスリョ・スヘルマン氏は、アジア各国での傾向と同様、インドネシア市場でもローカル映画の存在感が増しているとし、ローカル映画のシェアは、かつては20~30%だったのに対し、現在は65%まで増えていることを報告。「こんなことになるとは思いもしませんでした」と驚きを示すとともに、「同国でローカル映画が観客の関心を集める理由は、文化的共感と観客との関連性だと考えます。ローカル映画は地域の文化や生活に密着したテーマを扱うことで、観客の心を掴んでいるのです」と背景を説明しました。しかし、ハリウッド映画も依然として重要であり、「理想は50:50」とし、「ローカル映画だけでは業界は成り立ちません。ハリウッド映画の復帰が業界の完全回復には不可欠です」と呼びかけました。
ハリウッドにとっての「ハリウッド以外のコンテンツ」の重要性
加えて、ディズニーのトニー・チェンバース氏は、観客層を広げ、多様なニーズに応える映画こそが成功の鍵であり、そのためにはローカル映画やその他代替コンテンツが重要であるとの考えを示しました。「コロナ禍以降、ディズニー以外の各社が公開した小規模・中規模映画は、公開期間が短く設定されており、そのため消費者に『ストリーミングタイトル』とみなされ、足を運んでもらうのが難しくなりました。結果、製作本数が少なくなり、だからこそ、映画館はローカル映画を必要としました」と背景を説明しました。
さらには、テイラー・スウィフトのコンサート・フィルム『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』のような新たな事業スキームでの事例や、AppleやAmazonといった新興スタジオの作品は、業界に新たな機会をもたらしていると述べました。「ローカル映画や代替コンテンツは、観客の映画鑑賞頻度を上げ、映画館の存続を助けています。18スクリーンある映画館は『デッドプール&ウルヴァリン』だけでは成り立ちません。すべての観客層を満足させる様々な映画が必要なのです。私たちはこれらのコンテンツを課題や問題だとは思っておらず、業界にとって必要不可欠なものであると考えています」。
コロナ禍は終わった。業界として今にフォーカスし、ポジティブなメッセージを発信するべき
配給・興行、対立から協力へ
配給・興行が協力することで、ほかにもできることはあるか、というモデレーターのランス・パウ氏の投げかけに対して、ソニー・ピクチャーズのアン=エリザベス・クロッティ氏は、パネリストたちの主張に同意しつつ、「コロナ禍中は、配給と興行に対立があったように思います。コロナ禍から抜け出し、すべてを再建していくなかで、両者の関係を強化し、互いにどんな協力ができるか見極める時期が来ている」との考えを明かしました。同社の代表として、どんな突飛なアイデアでもチャレンジすることに寛容であり、タレントの協力のもと、観客を映画館に招いて驚くような特別な体験を提供することを重要視しているとし、あらゆる側面でパートナーシップが非常に大切であるとの認識を示しました。
積極的な成功事例の発信
また、ディズニーのチェンバース氏は、配給と興行の役割と、劇場鑑賞をイベント化することの重要性を改めて確認したうえで、大小問わず優れた事業者、記録的な成果を挙げた事業者の存在をより広めるべきだと指摘しました。「IMAX上映やファンイベントを実施するための資金がない事業者もいると思いますが、それでも何か特別なことをすれば観客は来場します。例えば、イギリスの私の地元の映画館では、上映前に映画好きなスタッフが作品について紹介するのです。小さなスクリーンで、席はおそらく60席ほどしかありませんが、それでも素晴らしい体験ができます。そしてそれは、その劇場に映画に情熱を持った人物がいることが分かるからで、自宅では得られない体験なのです」。結果を残せなかった映画や、破産手続きに直面している事業者が注目されがちだが、厳しい環境でも記録的な入場者数を叩き出し、飲食やその他の面などで目覚ましい成果を上げている事業者がいるなか、業界全体として成果を出せたことに焦点を当て、その良い話を広めるべきだと主張しました。
さらに、Cinema Association Australasiaのキャメロン・ミッチェル氏は、協会内で”COVID”を忌み言葉にしようとしている言及。「それは日々の結婚生活を結婚式の日と比較するようなものだからです。結婚した日ほどは、幸せではないと感じることもあるでしょう。でもそれは5年も前のことなのです。Uberが登場する前のタクシーについて話をしているようなものです」とコメントしました。そして、むしろ各事業者は最近の成功について積極的に話さなければならず、無責任に悲観的な話をするメディアに対抗していくべきだと強調。時には失敗もあるが、5年前に起こったことを話すのではなく、今何が起こっているのか、世界の興行収入が増加したことや「史上最高の興行成績を収めた」事例についてもっと話すべきであるとしました。そして、こうした業界関係者が集まるイベントで、過去の失敗だけではなく、異なる市場での成功事例を共有し、そこからヒントを得て、今後に目を向けていくべきだと締めくくりました。
*
ソニーのクロッティ氏が「『以前は』配給と興行が対立していた」とコメントしたとき、映画業界のコロナ禍は終わったのだと改めて実感しました。世界各国の総興行収入がコロナ前のレベルには戻っていないなか、不振について語るのは簡単です。だからこそ、あまり知られてない「大成功の事例をもっと発信すべき」という業界のリーダーたちの意見は非常に重要です。大まかに業界全体を語ることよりも、個別の成功事例から得られる示唆こそ価値があります。うまくいってないと言われているカテゴリ・ジャンルにも成功例はありますし、調子のよいジャンルにも失敗はあります。
そして、不振だと言われているものに対して、消費者は魅力を感じなくなる、ということにも留意すべきです。人は他者が魅力を感じているものに魅力を感じ、成功しているものに心を惹かれます。停滞の状況やその要因に関する言説、また悲観的なメッセージは、話題にはなりますが、決して状況を改善するものではなく、状況をさらに悪化させる要因にもなります。業界を盛り上げる上では、未来に意味合いをもたらす成功事例にもっと誰もが注目すべきで、広く発信されるべきだと考えます。
取材・構成:梅津 文
- 第1回:世界・アジア太平洋市場概況
- 第2回:日本市場におけるハリウッドの挑戦と機会
- 第3回:ヒットのために「配給は緊急性を醸成し、興行は頻度を高める」~エクゼクティブ・ラウンドテーブル(1/3)
- 第4回:映画館の価値を高める条件~エクゼクティブ・ラウンドテーブル(2/3)
- 第5回:「もはやコロナ後ではない」映画配給と興行、ローカルとハリウッド、対立を超えて~エクゼクティブ・ラウンドテーブル(3/3)
新着記事
-
「もはやコロナ後ではない」映画配給と興行、ローカルとハリウッド、対立を超えて~エクゼクティブ・ラウンドテーブル(3/3)
(2025/01/31) -
『薬屋のひとりごと』アニメ2期スタートで推しファン人数トップ3入り~2025年1月「推しエンタメブランド価値」ランキング
(2025/01/31) -
映画館の価値を高める条件~エクゼクティブ・ラウンドテーブル(2/3)
(2025/01/24)
新着ランキング
-
定額制動画配信サービス 週間リーチptランキングTOP20(2025年1月第4週)
(2025/01/31) -
メディア横断リーチpt 急上昇TOP10(2025年1月第4週)
(2025/01/31) -
メディア横断リーチpt 週間TOP10(2025年1月第4週)
(2025/01/31)