<コロナ禍における映画館での映画鑑賞に対する意識調査>コロナ禍で失われた映画鑑賞者を呼び戻すために
公開日: 2021/07/21
映画興行市場における2021年の総興行収入が、コロナ前と比べて累積で30%以上減少が続くなか、映画参加者人口も減少しています。コロナ禍からの映画産業の復興のためには、来なくなった人を再び劇場に呼び戻す必要があります。
果たして「来ていたのに来なくなった人」はどのような人なのでしょうか。どうしたら来るのでしょうか。復興のためにはどうしていくべきなのでしょうか。そして、復興のカギを握る作品はあるのでしょうか。先日実施した「新型コロナウイルスの影響トラッキング調査(第11回)」のデータを利用し、この「来なくなった人」に焦点を当ててこれらの分析を行いました。
調査方法:インターネットアンケート
調査対象:日本在住の15~69歳の男女
調査実施日:2021年6月26日(土)~28日(月)
回答者数:4,126人(一部設問は1,066人)
数値重みづけ:総務省発表の人口統計、弊社実施調査を参考に回答者を性年代・映画鑑賞頻度別に重みづけ
「GEM映画白書ダッシュボード」では、「新型コロナウイルスの影響トラッキング調査」の第1回からの全データ、セグメント別の詳細データを確認・分析いただけます。
コロナ以降、映画館から足が遠のいた「離脱者」は全体の17%
直近2年間(2019年6月~2021年6月)の鑑賞経験をみると、直近1年間(2020年6月~調査時点)に映画館で映画を観た「1年以内鑑賞者」は24%でした。一方、2年前から1年前(2019年6月~2020年5月)の間に映画館で映画を観たものの、直近1年間は観てない「離脱者」は17%となりました。この「離脱者」が、コロナ禍で映画産業が失った観客層となります。
年代が高くなるほど、離脱率が高くなる。地域による差はほとんどない
性別、性年代別、地域別の鑑賞経験と、それをもとにした「離脱率(2年以内鑑賞者に占める離脱者の割合)」をみると、性別では男性のほうがやや離脱率が高く、年代が上がれば上がるほど離脱率が高くなります。地域別の離脱率は首都圏がやや高めです。コロナ禍の影響度合いは、年代が大きく関係していることが分かります。
性年代別構成比をみると、1年以内鑑賞者では20代がボリュームゾーンとなり、離脱者では50代以上がボリュームゾーンとなっていることが分かります。
また、1年以内鑑賞者の半数近くが、観た作品として『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』を挙げました。以降、『名探偵コナン 緋色の弾丸』『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』など大ヒットアニメ作品が続きます。
離脱者が映画館に来なかった理由の一番の要因は「新型コロナウイルス感染が心配だから」で、約6割が理由として挙げました。また、「観たい作品がないから」も3割近くが理由として挙げています。
離脱者の今後の劇場鑑賞意向は、“後ろ向き層”と“浮動層“が半々
コロナ禍の収束と共にこの層をいかに取り込むかがカギ
直近2年間の鑑賞経験別に年内の映画館での映画鑑賞意向をみると、離脱者の半数は年内「絶対に行かない」「たぶん行かない」と答えています。こうした“後ろ向き層”に対して、残りは、「わからない」「たぶん行く」「絶対に行く」と答える“浮動層“です。
観客を後押しするのはコロナの収束と作品
「どのような状態になったら映画館に行くことに対して前向きになれるか」という質問に対しては、後ろ向き層の7割近くが「新型コロナウイルスの流行が収束したら」と答えています。ワクチンの浸透よりも「収束」という状況判断が上位に来ていることに注目です。これは個々人の判断が分かれるところでしょう。
一方、浮動層は、「観たい作品が出てきたら」と答える割合が最も高くなりました。1年以内鑑賞者で最も高い選択肢も同様に「観たい作品が出てきたら」と、傾向は同じです。
では、鑑賞意向の高い作品、つまり、「観客を呼び戻す」作品はなんでしょうか? 以下に、直近2年間の鑑賞経験別に、今後(調査時点)の劇場公開作品への鑑賞意向を集計しました。
浮動層で高い値を記録したのは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』『ワイルドスピード/ジェットブレイク』『ゴジラvsコング』『トップガン マーヴェリック』で、洋画アクション映画が上位に挙がっているのが特徴です。ハリウッド洋画大作の多くが公開延期となっていますが、こうした作品の公開とヒットが「離脱者」を呼び戻すカギとなりそうです。
一方、「1年以内鑑賞者」で最も値が高かったのは『劇場版 呪術廻戦 0』でした。『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』がコロナ禍での大きな起爆剤となったように、本作のヒットによる復興の後押しにも期待がかかります。
「映画館で観ることの良さ」について鑑賞経験別にみると、どのセグメントにおいても、「大画面」「音響」「非日常」「集中できる環境」「映像」などといった映画館の設備は訴求力を持っていることが分かります。作品の面白さとセットで、映画鑑賞の付加価値の訴求も重要なのではないでしょうか。
復興に向けて
1年に1本以上映画館で映画を観る映画参加者人口は、コロナ禍以降減少したままです。多くの「離脱者」は映画館に戻ってきていません。上記のように、復興にはコロナ禍の収束という環境要因とともに、強い作品の公開、そして映像・音響設備による映画鑑賞体験の訴求が有効と見えてきました。一方、映画鑑賞に限らずエンタテイメント鑑賞行動は習慣性のあるものであり、一度失われた行動がまた習慣となるようにしていくには力強い後押しが必要です。市場の変化を踏まえて、企画・宣伝・興行一丸となって長期的な、粘り強い取り組みが有効と考えます。
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