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第3回:日本映画市場のさらなる盤石な復興に向けて
公開日: 2022/11/11

特集:2022年 日本映画市場の興収見込みとマーケティングデータから見える展望(第3回)

「興行収入の復興度合い」「市場の構造変化」「さらなる盤石な復興に向けた提案」の3点から2022年の映画興行市場を紐解く本特集。最終回となる第3回は、これまで整理した2022年の興収見込みや映画市場の構造変化を踏まえ、日本映画市場の復興を超えて、さらなる発展につながる施策を3つの視点に立って考えました。

《目次》
 

今後のさらなる盤石な復興に向けて

ここまで見てきたとおり、映画の興行収入は力強く戻ってきていますが、市場環境は大きく変化しており、観客層の作り直しが必要です。それにあたっては、一つひとつの作品でのそれぞれの努力を超えて、個社・個別の作品の成功を下支えする、横断的な取り組みが必要でしょう。それを考えるにあたり、3つの視点を提案いたします。

 

視点①:「ジャンル」「テーマ別」の観客コミュニティを育てられないか

観客層の育成において、個別作品ごとに見る/見ないを判断するのではなく、「アニメ」や「韓国ドラマ」など、あるジャンルに属する作品は必ず見るという<履修文化>の醸成、もしくは<基礎票づくり>が重要だと考えます。

上記は、映画や音楽などといった個別のメディアに限らず、エンタテイメント全体のなかで「好きなもの」「はまっているもの」「推しているもの」をフリーアンサーで答えてもらい、機械処理で名寄せ集計したランキング結果です。『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』といった多メディア展開のメガコンテンツ(IP)が上位に入る一方、「韓国ドラマ」や「Amazon Prime Video」といったジャンルやプラットフォームを回答する人も多いことが分かります。

配信、ウエブトゥーン、SNSなど、消費するコンテンツの量は膨大に膨れ上がってきています。そのなかで、個別に見る/見ないを判断するといよりも、好きなジャンル、好きなプラットフォームで提供されるコンテンツを積極的に見るといった<まとめ買い>をする傾向が強くなってきているのではないでしょうか。例えば、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を見るか、見ないかではなく、「Netflixの韓国ドラマは必ずチェックするファン層」が形成されることで、属するすべての作品の基礎票が底上げされ、そのなかでブレイクした作品が大ヒットする傾向があると見受けられます。

エンタテイメントコンテンツは様々なメディアで楽しむことが可能です。例えば、『鬼滅の刃』を漫画として楽しんでいる人もいれば、音楽として楽しんでいる人もいます。上記チャートは、「映画」として楽しんでいるコンテンツに絞って、ランキングとしてまとめたものになります。シリーズものでは「マーベル・シネマティック・ユニバース」や「スター・ウォーズシリーズ」が上位に上がってきています。一方で、映画にカテゴライズされたエンタテイメントにも、「Amazon Prime Video」「映画」「Netflixオリジナル映画」などジャンル・プラットフォーム名は多く含まれています。

多メディア展開をする一部ヒット作は上位に入りますが、多くの作品は単体で上位にランクインすることはできません。そこで、<共通のくくり>を創出して<基礎票>を育てて、その中で火が付くとそのコミュニティを超えてヒットが生まれる流れが必要となります。これにより、第1回で触れた二極化が進行するなかで、「中間層」を厚くできないかと考えます。

くくりの切り口

それではどのような<共通のくくり>が考えられるのでしょうか。今後のラインナップの特徴を踏まえたもの、または創造したい市場、あるいは相対的に踏ん張っている顧客層・セグメントのグループを探すとすると……。

上記はコロナ前と比較した「よく見るジャンル/すきなタイプ別映画参加者人口の変化」です。アジア映画、アニメ、ホラー、ヨーロッパ映画などのジャンル・タイプ別の映画は相対的に減少幅が少なく、顧客セグメントは一様に縮小しているわけではないことが分かります。

上記は映画に関する行動特性の変化をコロナ前と比べたものです。「劇場公開の一週目に見る」「映画についてネットに書き込みをする」「1人で見る」などの能動的な観客は相対的に残っています。一方、年間鑑賞本数での「ミドル層(3~5本/6本~11本)」や「テレビで話題」「広告で見かける」といった受動的な観客は減少しています。こういった嗜好や行動様式をとらえた くくりを打ち出していくことが重要になってきます。

 

視点②:観客との主要な接点をどこに置くか

情報入手経路として映画館の重要性が高まってきています。邦画は劇場公開前においても、関連作品として漫画やアニメ、ドラマといった接点がほかに多くありますが、洋画の多くは映画館のみでの提供となります。そのため、劇場予告編など、今後ますます映画館でのタッチポイントを増やすことが重要であると考えます。

上記は邦画、洋画問わず、その年に公開された作品の情報をどこで知ったのかの平均割合の推移を表したチャートです。TVCMとTV番組が減少しているなか、劇場予告編は伸長しています。劇場予告編からの作品認知は、2014年以降高まり、コロナ禍に入って一旦下がったものの、再び上昇し、2022年はテレビ番組を超え、TVCMとほぼ同水準となりました。

情報入手経路の推移を邦画・洋画別にみると、邦画ではすべての情報入手経路が2021年から減少。特にテレビ経由の認知が大きく減少しているほか、デジタル(SNS、PC、モバイル)での認知も減少しています。

洋画は2021年から2022年にかけて洋画の作品規模がコロナ前に戻りつつあるなか、劇場予告編、TVCM、TV番組経由の認知が上昇しました。すべての項目でコロナ前の水準には戻っていませんが、劇場予告編はTVCM、TV番組を上回りました。

 

視点③:観客との継続的な接点を作る

映画館は作品に触れる主軸の接点ではありますが、映画館と映画館の間に継続的な接点を作ることも重要です。特に洋画においては、常に漫画やテレビアニメ、キャンペーンなどの形でコンテンツが提供されている邦画アニメに太刀打ちできません。かつてはテレビ朝日系列で放送されていた洋画を扱う映画番組『日曜洋画劇場』がありました。この番組を通じて映画を知ることで、映画館に来るポテンシャル層が形成されていたのではないでしょうか。残念ながら現在では放送されていません。そこで、成長著しい動画配信サービスを活用した継続的な映画との接点づくりができないかと考えます。

上記は定額制動画配信サービスにおいて、新規利用意向が高かった上位5サービスの利用率の推移です。コロナ禍以降、現在に至るまで多くのサービスの利用率が伸長していることが分かります。

定額制動画配信サービスの利用率が伸びていますが、どのようなコンテンツが視聴されているのでしょうか。上記は、18の定額制動画配信サービスを横断して調査した視聴者数の月次集計になります。劇場公開に連動した形でランキング上位に入る作品が多くあり、邦画は黄色地、洋画は橙色地でハイライトしています。邦画では『呪術廻戦』や『名探偵コナン』『ワンピース』など、洋画では『スパイダーマン』『マトリックス』『ファンタスティック・ビースト』『トップガン』などがあります。劇場観賞前のシリーズ前作の予習、鑑賞後にさらに体験を深めるための復習など、感動の増幅効果があったと思われます。

配信と劇場公開の連動は、映画館と映画館の間において、ファン層がコンテンツと深く接点を持つという意味で効果があるのではないでしょうか。「日曜洋画劇場」のようにテレビをつけたら無料で見られるというような事例もあり、気軽に映画との接点を作れるという意味で、YouTube活用の余地もあると考えます。

上記は映画鑑賞者の割合の推移を表したグラフです。グレイ線で表したのが「映画ユーザー」で、何らかの方法で1年間に1本以上映画を見ている人の割合です。一方、黄色は「非映画ユーザー」で映画を全く見ていない人の割合です。コロナ禍初期となる2020年4月頃は、「VOD(動画配信)ユーザー」の利用者が増えて、「映画ユーザー」も一時上昇しましたが、その後減少。2022年に入って「劇場映画ユーザー」が増加していくなか、「映画ユーザー」は下げ止まりにはなりましたが、増加には転じていません。結果として、「映画ユーザー」はコロナ前とくらべて10%ほど減少しています。とにかく何らかの方法で映画に触れる人を増やさなくてはならないのです。

 

世界市場と比べた日本映画市場の力強さ

2022年の年間興収見込みをグローバル(米中のぞく)、アメリカ、中国と比較すると、日本映画市場の復興具合の力強さが分かります。洋画は日本におけるグローバル映画市場とも考えられますが、66%超となり、グローバル、中国とくらべても復興が進んでいることが分かります。

上記はアメリカ映画のアメリカにおける興収を横軸に、日本における興収を縦軸にプロットしたものです。斜めに引いた近似線より上にある作品は、相対的にアメリカよりも日本のほうがうまくいったものと考えられます。時期によって近似線を色分けしており、2011年以降下がってきていましたが、2022年には回復しているのが分かります。日本における外国映画の活況状況が分かる1つの指標として捉えることができます。

今年の年間興収の見込値を過去と比べてみました。2011年の東日本大震災後、年間興収は落ち込みましたが、8年をかけて大きく復興を遂げました。その後、コロナ禍で再び落ち込みましたが、3年でここまで戻る見込みです。邦画・洋画別にみると、邦画は早い段階で戻っていたことが分かります。一方、洋画は昨年まで大きく落ち込んでいました。しかし、今年は昨年の倍程度まで戻ると見込んでいます。

これまで3つの視点を提案してきました。市場の作り直しは必要ですが、世界の映画市場に比べ日本映画市場は力強く復興を遂げています。大きな変化を受けて、市場を再活性化する施策に取り組むことで、復興を超えてさらなる発展につながるのではないでしょうか。

特集:2022年 日本映画市場の興収見込みとマーケティングデータから見える展望

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