第2章 “プラットフォーム”と“消費者”「2:『消費者』を超える『ファン』」
公開日: 2018/11/02
消費者のメディア接触の傾向が変わるなか、マーケターが最適な結果を得られる戦略にはどのようなものがあるのでしょうか。ARやインタラクティブ端末の誕生により、オーディエンスや消費者にリーチできる新たなプラットフォームが登場しましたが、どのようにリーチすればよいのでしょうか。また、動画配信やSNSといったOTTの契約者数増加によってマーケターが手にするチャンスとは一体?
”MASSIVE The Entertainment Marketing Summit”で行われたパネル・ディスカッション“Marketing to the Multiplatform Fan”では、プラットフォーム間でファンを生み出す方法について、トップクラスのマーケターとマーケティング・パートナーが議論を交わしました。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2018年3月)時点の情報です。
モデレーター:
ゲイル・フギット(Gayle Fuguitt)
フォースクエア(Foursquare) 顧客インサイト/イノベーション担当部門長
パネリスト:
アダム・ロックモア(Adam Rockmore)
ファンダンゴ(Fandango)上級副社長兼マーケティング/コミュニケーション部門長
――FandangoやRotten Tomatoes、FandangoNOW、Flixsterなどのサービスを展開
ゲイル・トロバーマン(Gayle Troberman)
アイハートメディア(iHeartMedia) 最高マーケティング責任者
――米大手ラジオ局運営会社。
ロナリー・ザラテ=バヤニ(Ronalee Zarate-Bayani)
ロサンゼルス・ラムズ(Los Angeles Rams) 最高マーケティング責任者
――米ロサンゼルスに本拠地を置くNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)チーム。
※登壇したパネリスト全員の概要は、連載第1回「第1章 “科学“と“技術”「1:データを解釈してストーリーを描け! 不可欠な定性分析」」をご覧ください。
「複数のプラットフォーム間を行き来するファンのマーケティング」をテーマに掲げる本ディスカッション。しかし、「消費者」と「ファン」にはどのような違いがあるのでしょうか。連載第6回は、トップマーケターがファンに関して感情面とデータ面の双方から紐解いていきます。さらにマーケターとして目指すべきひとつの頂点についての言及にも注目です。
1:「親密さ」こそが忠誠心の高いファンを育てる
モデレーター
「ファン」と「消費者」に違いはあるのでしょうか。このパネルディスカッションでは、複数のプラットフォームを行き来するファンへのマーケティングをテーマに進めています、そのため、この両者の違いを皆さんがどう捉えているのか非常に興味があります。そこで、まずはセレブリティや番組、特定のプラットフォームに対するファンに違いがあるのかを探っていきたいと思います。では最初にゲイル、ファンと消費者の違いについて少しお話しいただけますか?
ゲイル・トロバーマン(アイハートメディア)
ファンとは忠誠心の強い人々ではないでしょうか。対象がアーティストであっても、TVやラジオの番組であっても、長期間にわたって関係性を築いている人々です。アイハートメディアでは、「世界中の音楽がポケットの中に収められるのに、なぜアメリカ人の10人中9人が毎日ラジオを聴いているのでしょうか?」という質問をよく受けます。その答えは、彼ら/彼女らは番組、もしくはラジオパーソナリティのファンだからなのです。つまり、デバイスとしてのラジオではなく、車での通勤中に毎日つけているラジオ番組の司会者であるライアン・シークレストやビッグ・ボーイ、エルヴィス・デュランを聴いているのです。ファンに話を聞くと分かるのですが、彼らはラジオパーソナリティとの間に少し変わった関係性を築いているようです。毎日車で通勤する際、台本のない人間同士のやり取りを生で耳にすることから、相手に対して親密さを感じているのです。
ラジオの世界では、ファンは番組に対して尋常ではない親密さを抱いたり、理解を示したりします。そのため、まるで実際につきあいがあるかのように思ってしまうのです。ライアン・シークレストが良い例を挙げています。たとえば、彼がテイラー・スウィフトと一緒にいたとしたら、番組のファンは「テイラー、一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」と震えながらお願いするでしょう。一方、彼には「ライアン、シャッター押してもらえる?」と気軽に言う場面があり得るのです。なぜなら、彼らは毎日職場までライアンと一緒に車で通勤しており、先週風邪をひいたことも飼い犬を獣医に診せたことも、寝不足で疲れていて少し機嫌が悪いことも知っている仲だからです。
このような驚くべき親密さこそ、ファンがスポーツのスター選手や映画など求めていることではないでしょうか。ラジオであれば、1日に3時間かけて深く知りあうことができます。だからこそ、長期にわたる関係や忠誠心が醸成され、一般的な聴取者や視聴者とファンとの違いが生まれるのではないでしょうか。
2:マーケターとして目指すべきひとつの頂点
モデレーター
スポーツ選手の話がありましたので、NFLチーム、ロサンゼルス・ラムズの最高マーケティング責任者のバヤニにも話を伺いましょう。
ロナリー・ザラテ=バヤニ(ロサンゼルス・ラムズ)
ファンというものを捉える際、私は感情に注目します。普段、私は論理を重視しますが、こればかりは論理的ではありません。何かのファンであれば、それに対して強い情熱を傾けるはずです。たとえファンを辞めたほうがいい理由や、好きになってはいけない理由を1万個挙げられたとしても、 気に留めることはないでしょう。ファンというものは信念に従って生きているからです。消費者とファンとの一番大きな違いはこの点ではないでしょうか。ここが、マーケターとして目指すべきひとつの頂点といえるでしょう。なぜなら、マーケティング施策が、彼ら/彼女らのDNAの一部になっているといえるのですから。
消費者は出入りするものです。製品を“消費”したり、スポーツであれば試合を“消費”する一方で、立ち去ってしまうこともありえます。つまり、ファンこそが“消費”を後押しする推進力なのです。そのため、私たちの最終的な目標は、ファンが集まる場所にネットワークを構築することなのです。
3:ファンの程度をデータで解析
アダム・ロックモア(ファンダンゴ)
感情が重要なのは当然ですが、その対極にあるデータも非常に興味深いものです。一言にファンと言っても程度は様々です。今のデータの素晴らしいところは、プラットフォームを超えてシグナルを確認できることです。ファンの興味は弱いのか、強いのか、データを見ればその程度が分かります。
そして、データの本当にすごいところは、行動履歴を追えることです。それにより、彼ら/彼女らの今後の行動を推測できるのです。同時に、次の段階に押し上げるために、どの程度働きかける必要があるのかを推測する手助けにもなります。ここでも、技術と科学の両面を活用することは不可欠なのです。
第2章 “プラットフォーム”と“消費者”
『3: ブランドマーケターへの処方箋』
トップマーケターが語るマルチプラットフォーム戦略
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第1章 “科学“と“技術”
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第2章 “プラットフォーム”と“消費者”
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2:「消費者」を超える「ファン」
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