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【映画興行市場編】2018年映画・映像市場をマーケティングデータで振り返る
公開日: 2018/12/25

今年の映画・映像コンテンツ業界は、ヒット作や新しい取り組み、業界ニュースに事欠かない一年でした。GEM Standardで行っている調査データをもとに2018年を振り返ります。

「公開前にこの作品こそが観たい!」度合いが高かったのは?

映画浸透度調査CATS(※)では、「その映画を観る」という意欲を超えて、「それが一番観たい1本だ」という強い意欲を示す「ファーストチョイス」を指標としてモニタリングしています。以下は2018年公開映画のなかで、公開週のファーストチョイス値が最も高かった作品TOP10です。

 

 2018年、公開週のファーストチョイスTOP10

1位 『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』
2位 『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』
3位 『名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん)』
4位 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
5位 『ジュラシック・ワールド/炎の王国』
6位 『万引き家族』
7位 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』
8位 『銀魂2 掟は破るためにこそある』
9位 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』
10位 『ボヘミアン・ラプソディ』

 

人気シリーズ作品の続編やフランチャイズ作品、人気アニメ・ドラマの劇場版がずらっと並びました。熱いファンが「待っていました」とばかりに公開を待ちわびていたことがうかがえます。そのようななか、カンヌ国際映画祭の最高賞である「パルムドール」を受賞するという偉業を成し遂げた『万引き家族』と、クイーンのファンの高い意欲を喚起した『ボヘミアン・ラプソディ』がランクイン。「目撃しなければ」という高い意欲を掻き立てたことがうかがえます。

 

 

公開後の偉業:『グレイテスト・ショーマン』『カメラを止めるな!』『ボヘミアン・ラプソディ』の加速度的ヒット拡大

最終興行収入は公開週末土日興行収入の5倍程度が相場のなかで、その数値を大きく上回った話題作もたくさんありました。

 

2スクリーン公開から全国のシネコンで拡大上映され、最終興行収入30億を超えた『カメラを止めるな!』は、前例のない倍率です。口コミが口コミを、パブリシティがパブリシティを呼ぶ展開となりました。例えば、公開前のテレビ番組での扱いはほぼ皆無でした。しかし公開後、テレビでのパブリシティはGRP換算で公開13週目に累計5000を超えています。この展開で、公開6週目に21%だった認知率は、13週目では60%にまで達しました。

 

全国公開規模の作品ではほかに、最終興行収入が公開週末土日2日間の興行収入の13倍を超えた『グレイテスト・ショーマン』があります。こちらも公開時に27%だった認知率が9週目に33%まで上昇しました。

 

公開後の伸びという意味で注目すべきは、本コラム公開時点で依然力強い興行展開をみせている『ボヘミアン・ラブソディ』でしょう。土日2日間の興行収入は公開週3.5億だったのが、公開後4週連続で前週比増。公開5週目には5億を超えました。累計興行収入はすでに60億を超えました(2018年12月24日時点)。
テレビのパブリシティも公開12週前から公開までの累計が380GRPであったのに対して、6週目を迎えた先週末までの累計は4000GRPを超えています。認知率についても同様に躍進。オリジナル作品だったため、12週前では12%でしたが、その後、公開週に32%まで上昇。先週末(12月14日公開6週目)には、54%となり、実に22ポイント増加しています。これからも年末年始にかけて当面強い動きをしていくとみられます。

 

公開まで宣伝で一気に意欲率・認知率を上げ、公開時に意欲・認知のピークを迎え、興行で鑑賞意欲層を動員していくという従来型の方法だけでなく、公開後、どう宣伝を後押ししていくか。上記のような成功例を参考にした手法が注目されています。データマーケティング、デジタルマーケティングは、宣伝すれば宣伝するほどデータが蓄積され、宣伝がいわば資産化します。こういったツールの活用も2019年以降ますますヒットを後押しすると考えます。

根底にある"Cinematic Experience"の価値

Cinematic Experience

そもそも人はどうして映画館で映画を観ようと思うのか。何を求めているのか。ヒットが映画に対する新しい価値観や期待値を作り上げ、市場の構造変化が起こる。そしてその構造変化がまた次のヒット作を作る。前述した「ファーストチョイスが高い」、あるいは「異例の展開」となった作品たちはのちに2018年を語るうえでキーワードとなるでしょう。

 

ファーストチョイスTOP10で1位を獲得した『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』。同作はファンにとって見届けたい、記念イベント的な位置づけだったのではないでしょうか。ファーストチョイスランキング上位作品の多くには「いま、目撃しなければならないイベント」という要素を感じます。公開後の話題度がロングランヒットとなった前述の『カメラを止めるな!』などの作品も同様でしょう。

 

また、さらに『グレイテスト・ショーマン』『ボヘミアン・ラプソディ』は、楽曲シーンがストーリー・ドラマのハイライトとなります。映画館の大きなスクリーン、そして高い音響設備で観ることによるカタルシス効果が高く、まさに「体験型」ともいえる上映だったのではないでしょうか。

 

昨今、IMAXやドルビーアトモスのように、大きなスクリーン、高度な映像・音響技術によって、迫力、臨場感などの没入感を実現する上映方式で観たいというニーズが高まっています。「GEM映画白書」調査によれば、IMAX、4DX、MX4D、ドルビーアトモスなどの上映方式に関して、認知率も、「この1年間に利用したことがある」と答えた人の割合も、年々高まっています。一度そういった体験をした後は、「お気に入りの作品はどうせお金払うのだから、あともうちょっと多く払ってでも最高の体験にしよう」というニーズは、今後さらに拡大するのではないでしょうか。

 

上記のような、映画鑑賞体験におけるイベント性、没入体験型という訴求は今後ますます重要になっていくと考えます。家のテレビだけでなく、スマートフォンでもタブレットでも、映画がどこでも観られるようになっているなか、なぜ人は映画館へ行くのか? ここ数年の傾向では、「日常生活からの解放」「異なる世界・人生の体験」「他の鑑賞者との一体感」を得る“特別感”が強く求められていて、映画館で観ることは「暇つぶし」ではなくなってきています。“Cinematic Experience”ともいうべき、映画館でしか得られない体験を提供することの価値が高まっていると思います。

 

 

映画館で映画を観るときに映画に求めるものの変化

 

 

アメリカの2018年の興行収入は過去最高を更新するともいわれています。ハリウッドメジャースタジオや興行関係者が口にする"Cinematic Experience(映画的な体験)"を具現化する映画興行にまだまだ可能性が秘められていると考えます。

 

※2018年の市場調査を追加した『GEM白書オンライン』は2019年春にリリース予定です。

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